オンチェーン金融
資産を貸さずに利回りを生む「ステーキング」 報酬は証券貸借収益の7分の1規模に
ステーキングとは、保有する暗号資産をブロックチェーンの検証システムに預け入れ、取引の検証という業務を担う対価として報酬を得る仕組みです。資産を貸し出さずに追加利回りを得る点で証券貸借に、預入期間の拘束がある点で定期預金に似た構造を持ちます。
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- 執筆
- キリフダ株式会社
この記事の要点
- 既存金融の一つの商品には対応せず、証券貸借(追加利回り)・定期預金(拘束と解約)・清算機関の証拠金(違反時の没収)の3機能を1つに束ねた構造を持つ
- イーサリアムでは供給量の約34%にあたる4,141万ETH(約12.6兆円相当)が預け入れられ、過去最高を更新した(2026年8月時点)
- ETH1銘柄の年間報酬は約3,300億円と推定され、世界の証券貸借収益(2025年、約2.4兆円)の約7分の1に達した
- 利回りは2023年6月の5.06%から2.66%へ低下したが、これは預入が増えるほど1人あたり報酬が薄まる設計によるもので、預入は減っていない
- 検証者の違反や長期停止では預入資産の一部が没収(スラッシング)されるほか、解約に待ち行列が生じる流動性リスクがある
ステーキングとは:資産を預けて検証業務を担い、報酬を得る仕組み
保有する資産を誰にも貸さず、売りもせずに、利回りだけを受け取る——。ブロックチェーンの「ステーキング」がその手段として定着しています。イーサリアムでは2026年8月時点で供給量の約34%にあたる4,141万ETHが預け入れられ、過去最高を更新しました[1]。金額にして約12.6兆円(790億米ドル)相当です(預入量×2026年8月17日のETH価格1,907米ドル[4]による概算)。既存金融のどの機能に相当するのかを、証券貸借・定期預金・清算機関の3つと対比しながら解説します。
ステーキング(Staking)とは、保有する暗号資産をブロックチェーンの検証システムに預け入れ(ステーク=賭け金の意)、取引の検証という業務を担う対価として報酬を得る仕組みです。プルーフ・オブ・ステーク(PoS)と呼ばれる方式のブロックチェーンでは、取引記録の正しさを、預け入れられた資産を担保に選ばれた「バリデーター(検証者)」が確認します。
報酬の源泉は2つあります。ネットワークが新たに発行する通貨と、利用者が支払う取引手数料です。検証者が正しく稼働し続ければ報酬を受け取り、不正な検証や長期の停止があれば、預け入れた資産の一部が没収されます。この没収の仕組みを「スラッシング」と呼びます(図1)。
「担保を差し入れた者だけが決済インフラの担い手になれる」「違反すれば担保を失う」という規律で信頼を作る構造は、後述するとおり既存金融の清算機関と同じ発想です。異なるのは、その担い手の資格が制度や審査ではなく、資産の預入だけで誰にでも開かれている点です。
既存金融の何にあたるのか——証券貸借・定期預金・清算証拠金の3機能の合成
ステーキングは、既存金融の単一の商品には対応しません。機能を分解すると、3つの既存の仕組みを1つに束ねた構造をしています(表1)。
| ステーキングの機能 | 既存金融の対応物 | 共通する構造 |
|---|---|---|
| 保有資産から追加利回りを得る | 証券貸借(貸株・債券貸出) | 資産を売却せず保有したまま収益化する |
| 預入期間の拘束と解約の待ち時間 | 定期預金の預入期間・中途解約 | 流動性を差し出す対価として利回りを得る |
| 違反時の預入資産の没収(スラッシング) | 清算機関の証拠金・清算基金 | 担保の没収リスクが参加者の規律を作る |
| 検証者の預入要件(32ETH) | 清算参加者の資格要件・最低証拠金 | 資本の拘束がインフラの信頼を裏付ける |
| 預入持分の流動化(リキッドステーキング) | 譲渡性預金(CD)・貸出債権の証券化 | 拘束された資産に譲渡可能な持分を発行する |
最も近いのは証券貸借です。証券貸借とは、機関投資家が保有する株式や債券を空売りや決済の目的で借りたい相手に貸し出し、貸出料を得る取引で、保有資産を手放さずに追加利回りを得るという目的がステーキングと共通します。ただし収益の源泉が異なります。証券貸借の貸出料は借り手の需要(空売り・決済需要)から生まれるのに対し、ステーキングの報酬は決済インフラの運営という業務の対価であり、借り手が存在しません。
拘束の面では定期預金に似ています。イーサリアムでは預入も解約も待ち行列で処理され、解約の集中時には数日から数週間の待ち時間が生じます[1]。中途解約に制約がある代わりに普通預金より高い利回りを得る定期預金と同じく、流動性を差し出すことが利回りの一部の対価になっています。
報酬規模は証券貸借の7分の1——1銘柄でこの水準に達した
ステーキングの経済規模を、機能が最も近い証券貸借市場と比較します(表2、表3)。
世界の証券貸借収益は2025年に過去最高の約2.4兆円(153億米ドル)に達しました[5]。これは全世界・全銘柄の合計です。一方イーサリアムのステーキング報酬は年間約3,300億円(推定)と、1銘柄だけで証券貸借市場全体の約7分の1の規模になります。残高ベースでは証券貸借の貸出中資産約460兆円[5]に対し約37分の1であり、規模の差は依然大きいものの、「保有資産の追加利回り」という同じ用途で比較可能な水準に達しています。
コスト構造:仲介の階層が薄く、参加の最低単位が小さい
証券貸借に参加できるのは、カストディアンや代理貸出人の貸出プログラムを利用できる機関投資家に事実上限られます。貸出収益は借り手の支払う貸出料から代理人の手数料を差し引いて分配されますが、その料率は相対契約で開示が限定的です。
ステーキングの参加コストは公開されています。自前でバリデーターを運営する場合の要件は32ETH(約980万円、2026年8月17日のETH価格による換算[4])とサーバー1台で、仲介は存在しません。少額の保有者はプール(リキッドステーキング)を経由し、たとえば最大手のLidoは報酬の10%を手数料として控除します[6]。料率が公開され、預入から報酬分配までの全件がチェーン上で検証できる点は、相対で料率が決まる証券貸借との構造的な違いです。
資金フロー:利回りが下がっても預入は過去最高を更新
資金の流れには一見矛盾する2つの動きがあります。利回りは2023年6月の5.06%から2026年8月には2.66%へとほぼ半減しました[2]。それにもかかわらず、預入比率は供給量の33.98%と過去最高を更新しています[1]。
利回りの低下は設計によるものです。イーサリアムの報酬総額は預入量の平方根に比例して増える設計のため、預入が増えるほど1人あたりの利回りは機械的に薄まります[2]。つまり利回り低下は資金流出のシグナルではなく、参加者の増加そのものの結果です。低下してもなお預入が増え続けている背景には、後述するETFや企業財務による保有目的の資金が、遊ばせている資産の追加利回りを求めてステーキングに向かっている構図があります。
市場構造の面では、リキッドステーキング内の集中が進んでいます。預かり資産約5.7兆円のうち最大手Lidoが約2.9兆円と約半分を占めます(2026年8月18日時点)[3]。検証インフラの担い手が特定のプールに集中することは、ネットワークの中立性の観点から議論の対象になっています。
実ユースケース:ETFへの組み込みと企業財務の遊休資産運用
ステーキングの特長と使い方を整理します(図3)。
- 規制商品への組み込み:米国では2025年5月29日に米証券取引委員会(SEC)の企業金融部門が「一定のプロトコル・ステーキングは証券の募集・販売に該当しない」との見解を公表し[7]、同年10月にはGrayscale(グレースケール)のETHファンドが米国上場の暗号資産ETPとして初めてステーキングを組み込みました[8]。ステーキング型のSolana ETFも上場しており[9]、BlackRock(ブラックロック)もステーキング型ETH ETFを申請しています(2025年12月、CoinDesk報道[10])
- 企業財務の遊休資産運用:自社保有の暗号資産を売却せずに利回り化する手段として、トレジャリー企業がステーキングを利用しています。保有を続けながら年2%台の利回りを得る構図は、余剰資金を定期預金や債券で運用する企業財務の発想と同じです
- 預入持分の担保利用:リキッドステーキングで発行される持分トークンは、預入の利回りを受け取りながら、レンディングの担保や決済手段として使えます。拘束された資産を流動化する点で、貸出債権の証券化に相当する機能です
スラッシング・解約待ち・集中がリスク要因
課題も明確です。第一に、元本の没収リスクです。検証者の不正や長期停止では預入資産の一部が没収されます。プール経由の場合、運営者の障害が預入者全員の損失に波及し得ます。定期預金と異なり、元本保証も預金保険もありません。
第二に、流動性リスクです。解約は待ち行列で処理されるため、解約が集中する局面では引き出しまでに数日から数週間を要します[1]。リキッドステーキングの持分トークンは市場でいつでも売却できますが、混乱時には預入資産の価値から乖離して取引される(デペッグ)可能性があります。米SECの企業金融部門は2025年8月にリキッドステーキングにも見解を示しましたが、いずれの見解も職員声明であり法的拘束力はなく、委員の反対意見も付されています[7][11]。
第三に、集中リスクです。リキッドステーキングの預かり資産の約半分が単一のプールに集中しており[3]、検証インフラの中立性と、障害時の影響範囲の大きさが構造的な論点として残ります。
まとめ:ステーキングは「決済インフラの担い手の対価」を誰でも買える商品にした
よくある質問
- ステーキングとは何ですか
- ステーキングとは、保有する暗号資産をブロックチェーンの検証システムに預け入れ、取引の検証という業務を担う対価として報酬を得る仕組みです。報酬の源泉はネットワークの新規発行と利用者の取引手数料で、イーサリアムの利回りは年2.66%です(2026年8月時点)。
- ステーキングは既存金融の何にあたりますか
- 単一の商品には対応せず、3つの機能の合成にあたります。保有資産から追加利回りを得る点は証券貸借、預入期間の拘束と解約の待ち時間がある点は定期預金、違反時に預入資産が没収される点は清算機関の証拠金と同じ構造です。
- ステーキングと証券貸借はどう違いますか
- 目的は同じ「保有資産の追加利回り」ですが、収益の源泉が異なります。証券貸借の貸出料は空売りなど借り手の需要から生まれるのに対し、ステーキングの報酬は決済インフラの運営という業務の対価であり、借り手が存在しません。参加要件も、証券貸借が機関投資家に事実上限られるのに対し、ステーキングはプール経由で誰でも参加できます。
- ステーキングの利回りはなぜ下がっているのですか
- 参加者が増えているためです。イーサリアムの報酬総額は預入量の平方根に比例して増える設計のため、預入が増えるほど1人あたりの利回りは機械的に薄まります。利回りは2023年6月の5.06%から2026年8月には2.66%へ低下しましたが、同じ期間に預入比率は供給量の約34%へと過去最高を更新しています。
- ステーキングのリスクは何ですか
- 主に3つあります。検証者の不正や長期停止で預入資産の一部が没収されるスラッシング、解約が待ち行列で処理されるため引き出しに数日から数週間かかる流動性リスク、リキッドステーキングの預かり資産の約半分が単一プールに集中している集中リスクです。元本保証や預金保険はありません。
- リキッドステーキングとは何ですか
- 預け入れた資産の持分を表すトークンを受け取り、預入の利回りを得ながらそのトークンを売買や担保に使える仕組みです。拘束された資産を流動化する点で、譲渡性預金や貸出債権の証券化に相当します。預かり資産は約5.7兆円で、最大手のLidoが約半分を占めます(2026年8月18日時点)。
- 機関投資家はステーキングを使っていますか
- 使い始めています。米国では2025年10月にGrayscaleのETHファンドが米国上場の暗号資産ETPとして初めてステーキングを組み込み、ステーキング型のSolana ETFも上場しています。前提として、米SECの企業金融部門が2025年5月に「一定のプロトコル・ステーキングは証券の募集・販売に該当しない」との見解を示したことが規制面の転機になりました。
用語集
- ステーキング(Staking)
- 暗号資産を検証システムに預け入れ、取引の検証を担う対価として報酬を得る仕組み。
- プルーフ・オブ・ステーク(PoS)
- 預け入れられた資産を担保に検証者を選び、取引記録の正しさを確認するブロックチェーンの合意方式。
- バリデーター(検証者)
- 資産を預け入れて取引の検証を担う主体。イーサリアムでは32ETHの預入が要件。
- スラッシング
- 検証者の不正や長期停止に対して、預け入れた資産の一部を没収するペナルティの仕組み。
- リキッドステーキング
- 預入持分を表すトークンを発行し、拘束された資産を売買や担保に使えるようにする仕組み。
- 証券貸借
- 保有する株式や債券を借り手に貸し出して貸出料を得る取引。保有資産の追加利回りの代表的手段。