オンチェーン金融

「トークン化株式」がHyperliquidで暗号資産の取引高を逆転 週4.0兆円・全体の52%に

トークン化株式とは、株式の価値をブロックチェーン上のトークンとして表現し、取引所の営業時間外でも売買・移転できるようにした金融商品です。実際の株式を保管して発行する現物裏付け型と、証拠金取引で価格だけに連動させる合成型(パーペチュアル)の2類型があります。

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キリフダ株式会社

この記事の要点

  • Hyperliquidでは2026年7月13〜19日の週、株式・商品などトークン化RWAの取引高が約4.0兆円(251億米ドル)と週間全体の52%を占め、暗号資産系を初めて上回った
  • トークン化株式には、実際の株式を保管して発行する現物裏付け型(Ondo・Robinhood・Backpackなど)と、価格だけに連動する合成型(Hyperliquidのパーペチュアル)の2類型がある
  • 取引の中心は合成型で、Hyperliquidの株式・商品系だけで日次平均約5,700億円(推定)。東証プライムの売買代金(日次11.6兆円)の約20分の1にあたる
  • 誰でも市場を開設できるHIP-3の導入(2025年10月)が逆転の起点で、株式・商品系のシェアは年初の2%から半年で約50%へ急伸した
  • 合成型は株式そのものではなく配当も議決権もない。逆転の裏でHyperliquidの粗収益は四半期で43%減っており、手数料の分配構造にも変化が起きている

トークン化株式とは株式の売買を取引所の時間から切り離す商品

株の取引が、取引所の閉まる夜も週末も止まらなくなりました。オンチェーン取引所Hyperliquid(ハイパーリキッド)では2026年7月13〜19日の週、トークン化された株式・株価指数・商品(コモディティ)の取引高が約4.0兆円(251億米ドル)に達しました[1]。週間全体の52%を占め、暗号資産系の取引を初めて上回っています[1]。暗号資産のために作られた取引インフラの上で、主役が株式に入れ替わった瞬間です。

トークン化株式(Tokenized Stocks)とは、株式の価値をブロックチェーン上のトークンとして表現し、取引所の営業時間外でも売買・移転できるようにした金融商品です。ひと口にトークン化株式と言っても、仕組みは大きく2つに分かれます(図1)。

1つは現物裏付け型です。発行者が実際の株式を米国の証券保管インフラで預かり、それと引き換えにトークンを発行します。保有者は株価の値動きに加えて、配当相当額を受け取れるものが多い型です。Ondo(オンド)・Robinhood(ロビンフッド)・Backpack(バックパック)がこの型で提供しています[7][9][10]。もう1つは合成型です。株式そのものは存在せず、証拠金取引の仕組み(パーペチュアル)で価格だけを株価に連動させます。Hyperliquid上の株式取引はこちらの型です[2]

トークン化株式の2類型を比較した図表。現物裏付け型は実際の株式を保管してトークンを発行し配当相当額も受け取れる。合成型は株式を保有せず証拠金と資金調達率で価格だけに連動させる
図1 トークン化株式の2類型の違い

どちらの型も、株式の売買を取引所の営業時間から切り離す点は共通です。パーペチュアル(無期限先物)の仕組みそのものは別稿で解説しているため、本稿は「株式がオンチェーンに載った」ことの意味に絞ります。

株式・商品の取引高が暗号資産を上回った

逆転の規模を確認します(表1)。Hyperliquidの週間取引高約7.7兆円(482億米ドル)のうち、株式・株価指数・商品などのトークン化RWAが約4.0兆円(251億米ドル)と52%を占めました(2026年7月13〜19日)[1]。差し引きで暗号資産系は約3.7兆円です(図2)。この比率は2026年の年初にはわずか2%でした[2]

表1 Hyperliquidの株式・商品系取引の主要指標
指標数値出所
週間取引高(RWA系)約4.0兆円(251億米ドル、2026年7月13〜19日)[1]
週間全体に占める比率52%(暗号資産系を初めて逆転)[1]
日次平均(RWA系)約5,700億円※[1]
取引高シェアの推移2%(2026年初)→約50%(2026年央)[2]
建玉(HIP-3市場)約1,260億円(7.9億米ドル、2026年1月)→約5,100億円(32億米ドル、同6月)[3]
対象銘柄NVIDIA・Tesla等の個別株、S&P500系指数、金・銀、プレIPO銘柄[4]
Hyperliquidの週間取引高の構成を示す棒グラフ。株式・商品などトークン化RWAが約4.0兆円、暗号資産系が約3.7兆円で、RWAが初めて上回った
図2 Hyperliquidの週間取引高の構成(2026年7月13〜19日、円換算)

既存の株式市場と比べると、規模の差はまだ大きいままです。東京証券取引所プライム市場の1日平均売買代金は11兆6,019億円(2026年7月)[5]。Hyperliquidの株式・商品系の日次平均約5,700億円(推定)はその約20分の1です。一方、現物裏付け型のトークン化株式は世界全体の残高が約4,000億円(25億米ドル、2026年8月13日時点)[6]です。取引の規模ではまだ小さく、保有の器として広がっている段階といえます。

提供者は証券系の事業者と、市場を「開設」する事業者

現物裏付け型は、証券インフラを持つ事業者が主導しています。Ondo Financeは100を超える米国株・ETFのトークンをEthereum上で非米国投資家向けに提供し[7]、Solana上では200銘柄超に広げました[8]。Robinhoodは2025年6月30日、EU顧客向けに200超の米国株・ETFトークンをArbitrum上で提供開始しています。手数料は無料で、配当の受け取りにも対応し、週5日24時間の取引に加えて独自ブロックチェーンでの週7日化も計画しています[9]。Backpackは2026年6月にBackpack Securitiesを開始しました。米国の規制ブローカレッジとトークン化レイヤーを組み合わせ、Solana上にトークン化株式を発行しています[10]

暗号資産交換業者の大手も相次いで参入しています。KrakenとBybitは、Backed Finance(バックト・ファイナンス)が発行する「xStocks」の取り扱いを2025年6月30日に始めました。55を超える米国株・ETFをSolana上のトークンとして提供するもので、発行体が実際の株式を保管する1対1の裏付けを持ちます[12][13]。Binanceは2026年6月、グループ会社が発行する「bStocks」の取引を開始しました。BNBチェーン上のトークンで、配当や株式分割は自動で処理されます[14]。Coinbaseも2026年6月に非米国顧客向けのトークン化株式を発表し、米国内での提供に向けてSECの承認を申請しています(CoinDesk報道)[15]

合成型の担い手は、取引所本体ではなく「市場の開設者」です。Hyperliquidが2025年10月に導入したHIP-3という枠組みでは、50万HYPE(同取引所のトークン)を預け入れれば誰でも新しい市場を開設できます。開設者には取引手数料の最大半分が入ります[2]。株式・商品市場の建玉の9割超は、trade.xyzという一事業者が開設した市場に集中しています[2]。取引所が上場銘柄を決める既存の構造と違い、「何を取引可能にするか」の決定権が担保を積んだ事業者に開放されているわけです。

表2 主なプレイヤーの提供形態
提供者提供内容対象者
Ondo Finance現物裏付け型米国株・ETFトークン200銘柄超(Ethereum・Solana等)非米国投資家[7][8]
Robinhood現物裏付け型米国株・ETFトークン200超、手数料無料・配当対応(Arbitrum)EU顧客[9]
Backpack現物裏付け型規制ブローカレッジ+トークン化レイヤー(Solana)150超の国・地域の利用者[10]
Kraken・Bybit現物裏付け型Backed発行のxStocks 55銘柄超(Solana)非米国の適格顧客[12][13]
Binance現物裏付け型グループ会社発行のbStocks(BNBチェーン)、配当・分割を自動処理適格利用者[14]
Coinbase現物裏付け型配当パススルー対応のトークン化株式(Base)非米国顧客(米国内はSEC承認申請中)[15]
trade.xyz(Hyperliquid)合成型個別株・指数・金銀・プレIPOのパーペチュアルウォレット保有者[2][4]

仲介の少なさと引き換えに収益の分配が変わった

取引コストの面では、トークン化株式は既存の株式取引と構造が異なります。既存の株式売買では、証券会社・取引所・清算機関・保管機関がそれぞれ手数料を取ります。現物裏付け型のRobinhoodはここで売買手数料を無料とし、上乗せスプレッドも取らない形を打ち出しました[9]。合成型は取引手数料のみで、清算・証拠金管理はスマートコントラクトが自動執行します。

この逆転は、プラットフォーム側の収益をむしろ圧迫しています。HIP-3では市場の開設者が手数料の最大半分を持っていくため、株式・商品系の取引が増えるほど、Hyperliquid本体の取り分は薄くなります。同取引所の売上原価率は2025年4〜6月期の6%未満から2026年同期には18%へ上がり、開設者への手数料支払いは四半期で約25億円(1,600万米ドル)に達しました。粗収益は2025年7〜9月期の約570億円(3.57億米ドル)をピークに、2026年4〜6月期には約320億円(2.02億米ドル)へと43%減っています[2]。取引の主役交代は、収益の分配構造の交代でもあります。

半年でシェアは2%から52%へ、担い手は米国時間外の投資家

資金の流入は速く、かつ持続しています。Hyperliquidの株式・商品系のシェアは2026年初の2%から年央には約50%へ拡大しました[2]。建玉も2026年1月の約1,260億円から6月には約5,100億円へ4倍になっています[3]。単発の話題性ではなく、ポジションが積み上がる形での拡大です。

保有者の裾野も広がっています。現物裏付け型を含むトークン化株式の保有ウォレット数は100万を超えました(2026年8月時点)[6]。需要の源泉としてまず挙がるのは、米国市場の取引時間にアクセスしづらい米国外の投資家です。米国株の取引所が開くのは日本時間の深夜であり、時差の外にいる投資家にとって「いつでも取引できる米国株」は、既存の証券口座が提供してこなかった商品性でした。

既存市場側も止まってはいません。Nasdaqは取引時間を1日23時間・週5日に広げる「Global Trading Hours」を掲げ、2026年12月6日の移行を目標にしています[11]。オンチェーン側が先に実現した「眠らない株式市場」を、規制市場が追いかける構図です。

使い道は時間外の売買、少額の分散投資、未上場株へのアクセス

使い方は3つに整理できます(図3)。

トークン化株式の3つの特長と主なユースケースの対応表。眠らない株式・小さく買える・証券口座がいらないという特長が、時間外の売買・少額分散・未上場株アクセスを生む
図3 トークン化株式の特長と主なユースケース
  • 取引時間外の売買・ヘッジ:米国市場の閉場中に材料が出ても、トークン化株式なら即座に売買できます。決算発表後の時間外や週末の地政学イベントへの対応が代表例です
  • 少額からの分散投資:トークンは小数単位で買えるため、値がさ株にも少額から投資できます。現物裏付け型では配当相当額の受け取りに対応するものもあります[9]
  • 未上場株へのアクセス:合成型ではSpaceXなどプレIPO銘柄のパーペチュアルが取引されています[4]。従来は機関投資家や適格投資家に限られていた未上場株のエクスポージャーが、ウォレットだけで持てるようになりました

最大のリスクは、それが株式ではないこと

最大の論点は、多くのトークン化株式が法的には株式そのものではないことです。合成型は価格に連動するだけの証拠金取引です。配当はありません。議決権もなく、発行企業との法的な関係もありません。現物裏付け型でも、保有者が持つのは通常トークンの発行者への請求権であり、株主名簿に載る株主ではありません。議決権は原則行使できず、発行者が破綻した場合の保全は各社の設計に依存します。

規制の線引きも国・地域ごとに未確定です。RobinhoodのトークンはEU顧客限定、Ondoは非米国投資家向けで、米国居住者は主要な現物裏付け型のトークン化株式をほぼ利用できません[7][9]。米国株を最も自由に取引できないのが米国居住者という、規制の隙間を突いた構図になっています。この構図は規制変更で一変し得ます。

価格の質にも限界があります。取引所の閉場中は原資産の価格発見が止まっているため、時間外のトークン価格は本来の株価から乖離し得ます。プレIPO銘柄に至っては参照すべき市場価格自体が存在しません。流動性も銘柄間の偏りが大きく、建玉の9割超が単一の開設者の市場に集中している状態は[2]、その事業者の運営リスクがそのまま市場リスクになることを意味します。

暗号資産のインフラの上で、主役が株式に替わった

トークン化株式(Tokenized Stocks)の現在地は数字で確認できます。Hyperliquidでは株式・商品系の取引高が週約4.0兆円・全体の52%に達して暗号資産を逆転し[1]、シェアは半年で2%から約50%へ動きました[2]。規模は東証プライムの約20分の1[1][5]とまだ小さいものの、保有ウォレットは100万を超えました[6]。Robinhood・Ondo・Backpackといった証券・金融事業者に加え、Kraken・Binance・Coinbaseの大手交換業者も現物裏付け型で参入済みです[7][9][10][12][14][15]。Nasdaqが23時間取引で追随する[11]いま、「株式は取引所の時間内で売買するもの」という前提のほうが、先に崩れ始めています。

よくある質問

トークン化株式とは何ですか
トークン化株式とは、株式の価値をブロックチェーン上のトークンとして表現し、取引所の営業時間外でも売買・移転できるようにした金融商品です。実際の株式を保管して発行する現物裏付け型と、証拠金取引で価格だけに連動させる合成型(パーペチュアル)の2類型があります。
Hyperliquidで何が起きたのですか
2026年7月13〜19日の週、トークン化された株式・株価指数・商品の取引高が約4.0兆円(251億米ドル)となり、週間全体の52%を占めて暗号資産系の取引高を初めて上回りました。このシェアは2026年の年初にはわずか2%でした。
現物裏付け型と合成型はどう違いますか
現物裏付け型は発行者が実際の株式を保管してトークンを発行するもので、配当相当額を受け取れる設計が多く、Ondo・Robinhood・Backpackが提供しています。合成型は株式を保有せず証拠金取引で価格だけに連動させるもので、Hyperliquid上の株式パーペチュアルが代表例です。どちらも法的には株式そのものではありません。
トークン化株式と普通の株式投資はどう違いますか
取引時間(取引所の営業時間→24時間)、購入単位(単元・1株→小数単位)、保有形態(株主名簿上の株主→トークン保有者)の3点が主な違いです。トークン保有者は議決権を原則行使できず、株主としての法的地位を持ちません。
日本や米国からトークン化株式は買えますか
主要な現物裏付け型は提供地域を限定しており、RobinhoodのトークンはEU顧客向け、OndoやKrakenのxStocks、Coinbaseのトークン化株式は非米国の利用者向けです。米国居住者は主要サービスをほぼ利用できず、CoinbaseがSECに米国内での提供の承認を申請している段階です。日本の居住者向けの取り扱いは各サービスの対応状況と国内規制によるため、利用前に提供条件の確認が必要です。
トークン化株式のリスクは何ですか
法的に株式ではないこと(配当・議決権・発行企業との関係の欠如、または発行者への請求権にとどまること)、取引所の閉場中は原資産の価格発見が止まり価格が乖離し得ること、流動性や市場運営が特定の事業者に集中していること、そして各国の規制上の位置づけが未確定であることです。
既存の証券取引所はどう対応していますか
Nasdaqは取引時間を1日23時間・週5日に拡張する「Global Trading Hours」を掲げ、2026年12月6日の移行を目標にしています。オンチェーン側が先行した24時間取引を、規制市場が追いかける形です。

用語集

トークン化株式
株式の価値をブロックチェーン上のトークンとして表現し、時間外でも売買できるようにした金融商品。
現物裏付け型
発行者が実際の株式を保管し、それと引き換えにトークンを発行する方式。配当相当額に対応するものが多い。
合成型(株式パーペチュアル)
株式を保有せず、証拠金取引の仕組みで価格だけを株価に連動させる方式。配当・議決権はない。
RWA(実物資産)
株式・債券・商品など、ブロックチェーンの外に存在する資産。トークン化して扱う対象を指す。
HIP-3
Hyperliquidで担保を預け入れた事業者が誰でも新しい市場を開設できる枠組み。2025年10月導入。
プレIPO銘柄
上場前の企業の株式。トークン化株式では合成型としてエクスポージャーが取引されている。