暗号資産市場におけるセクターインデックスの必要性
著者

山口 睦生
Head of Blockchain Intelligence

エグゼクティブサマリー
株式市場では、金融、テクノロジー、ヘルスケア、エネルギーといったセクター分類が広く活用されています。投資家はセクターを通じて市場環境を把握し、どの産業に資金が向かっているのかを読み取りながら、ポートフォリオのリスク管理やテーマ投資を行います。S&P500をGICS(世界産業分類基準)の11セクターに分けて見るように、セクターは市場全体の値動きと個別銘柄の値動きの間をつなぐ中間の解像度を提供し、市場を語るための共通言語として機能してきました。 一方、暗号資産市場では依然としてBTC・ETH・アルトコインといった粗い分類が主流であり、体系的なセクター分類が十分に整備されていません。数千の銘柄が「アルトコイン」という一語でまとめられてしまうため、市場のどこに資金が動いているのかを把握しづらく、投資家が自らのリスクの中身を説明することも難しいのが現状です。しかし、市場規模の拡大とともに、暗号資産市場にも明確な産業構造が形成されつつあります。 本記事では、暗号資産市場においてなぜセクター分類とセクターインデックスが必要になりつつあるのかを過去の市場サイクルの振り返りを通じて整理します。 なお本記事は情報提供を目的とした調査・解説であり、特定の金融商品や暗号資産の投資を勧誘するものではありません。
.png)
セクター分類が投資判断の共通言語になる
例えば、暗号資産市場のトークンの中にも様々な分野が存在しており、それぞれ異なるユーザー層、収益モデル、成長ドライバーを持っています。
- Layer1チェーン ($ETH、$SOL、$BNB etc)
- DeFi ($AAVE、$COMP、$MORPHO etc)
- AI ($VIRTUAL、$VVV etc)
- Gaming ($HMSTR、$GMT etc)
- Meme($DOGE、$TRUMP etc)
Layer1がチェーンの採用競争によって評価されるのに対し、DeFiはTVLや金利環境、Gamingはユーザー数やコンテンツの人気によって動くように、価格を動かす要因はセクターごとに大きく異なります。
株式市場ではエネルギー株と半導体株が別々のロジックで動くのと同じ構図が、暗号資産市場にも現れています。

2028年の金商法移行に伴い、機関投資家の参入が進むにつれ、株式市場と同様に暗号資産市場においてもセクター単位で市場を把握し、投資判断を行うための材料が必要になると考えられます。また、セクター別のインデックスや投資信託を用意することで、投資家が自身の好むリスクを選んで取れるようにしていくことも、市場の成熟に伴って必要になっていくと考えられます。
セクターインデックスの活用方法
セクターインデックスは、単に市場を眺めるための指標にとどまらず、実際の運用に落とし込むことができる点に価値があります。ここでは代表的な三つの活用方法を整理します。
① テーマ投資
暗号資産市場では、特定のナラティブ(投資テーマ)が市場を主導する局面が頻繁に発生します。ある年はAI、別の年はMemeといったように、資金が集まるテーマは短期間で移り変わり、そのテーマに乗れたかどうかがパフォーマンスを大きく左右します。実際、直近数年で市場の中心となったナラティブは次のように推移してきました。
2023年:AI / Gaming / L2
2024年:Meme / AI / RWA / Gaming
2025年:Meme / AI / AI Agents / DeFi / L1

投資家は必ずしも個別銘柄を選びたいわけではなく、AIセクターに投資したい、DeFiへのエクスポージャーを増やしたい、といったテーマ単位のニーズを持つことが少なくありません。個別銘柄の選定には、そのプロジェクト固有のリスクを見極める手間が伴いますが、テーマの方向性が正しくても選んだ一銘柄が外れれば成果につながらない、という難しさもあります。
セクターインデックスは、こうしたテーマへの投資を、個別銘柄選定の負担を抑えながら実現する手段を提供します。
また、アセットマネージャーにとっても、個別銘柄選定ではなくセクター配分という切り口でアクティブ運用を組み立てられるようになります。
② リスク管理
ポートフォリオ運用において、リスクを理解し、管理することはリターンを追求することと同じくらい重要です。暗号資産市場ではアルトコインという一括りで扱われることが多いものの、実際にはセクターごとに異なるリスク特性を持ちます。
例えば、先述のとおり
- L1はチェーンの採用競争
- DeFiはTVLや金利環境
- AIはAI市場全体への期待
- Gamingはユーザー数やコンテンツの人気
のような変数によって価格が変動します。一括りに「アルトコインを保有している」と捉えている状態では、こうした異なるリスクが自らのポートフォリオにどれだけ含まれているかが見えません。セクターインデックスを利用することで、セクター別のエキスポ―ジャーを可視化することが可能になり、あるセクターへのリスク集中の回避や、分散投資の実施が可能となります。
株式運用において業種別の配分を管理するのと同じ発想を、暗号資産のポートフォリオにも持ち込めるようになるということです。
Sector | Driver |
|---|---|
L1 | TVL・ユーザー |
DeFi | TVL・金利 |
Gaming | DAU |
AI | AI Narrative |
③ ファクター運用・ロングショート運用
暗号資産市場は市場全体のベータ(ポートフォリオの収益が市場全体の動きに対してどの程度反応するのかの感応度)が極めて大きく、多くの銘柄が市場全体の上げ下げに連動して動きます。あるセクターが上昇していても、それがセクター固有の強さによるものなのか、市場全体が上昇している波に乗っているだけなのかは、値動きを眺めるだけでは区別がつきません。
そのため、そのセクターが本当に強いのかと暗号資産市場全体が上昇しているだけなのかを切り分けることが、運用の巧拙を分けるポイントになります。
セクターインデックスを活用することで、
- AIロング vs 市場ショート
- Gamingロング vs L1ショート
- DeFiロング vs Crypto Marketショート
といったマーケットニュートラル戦略を構築できます。市場全体の方向性を相殺し、純粋にセクター間の相対的な優位性に賭けられるようになる、というのがこの手法の狙いです。
セクターインデックスを用いた投資手法
前節で挙げた活用方法を、実際の運用スタイルに落とし込むと、大きくロングオンリーとロングショートの二つに整理できます。
ロングオンリー
最もシンプルな利用方法で、投資家は特定セクターのインデックスを保有することで、そのテーマ全体へのエクスポージャーを取得できます。個別銘柄を選ぶ必要がなく、セクターの中で一部の銘柄が伸び悩んでも、他の銘柄の上昇で補われるため、テーマそのものへの投資として分かりやすい形になります。
構築方法としては、
- 時価総額加重
- 流動性加重
- 等金額加重
などが考えられます。時価総額加重は大型銘柄の影響が大きくなり、等金額加重は小型銘柄の動きも取り込みやすいというように、加重の設計によってインデックスの性格が変わる点には留意が必要です。
ロングショート
セクターインデックスは、ヘッジの対象としても利用できます。
例えば、AI銘柄に強気であれば、
- AIセクターをロング
- Crypto Market Indexをショート
という組み合わせにすることで、市場全体のリスクを相殺しながらAIテーマに投資できます。市場全体が下落する局面でも、AIセクターが市場を上回って推移すれば利益が残る、という構造です。これは株式市場におけるセクターニュートラル運用と同様の考え方であり、暗号資産市場のように市場全体のベータが大きい環境では、特に意味を持ちやすい手法だといえます。
セクター分類の設計
ここまでセクターインデックスの意義と活用方法を見てきましたが、その前提となるのがセクターをどう分けるかという設計です。株式市場のGICS(世界産業分類基準)のように広く合意された分類が存在しない暗号資産市場では、分類の設計そのものがインデックスの品質を左右します。
今回Hyperliquidで上場する189銘柄に対して以下の11セクターを設計してパフォーマンスを確認します。
各セクターの内容は以下の通りです。
セクター | 内容 |
|---|---|
L1 | ブロックチェーンの土台となる基盤レイヤー。スマートコントラクトを軸とするEVM互換・非EVM系、決済やエンタープライズ用途に特化した系統などでサブセクターで設計。 |
Scaling | L1の処理能力やコスト、拡張性を補完・拡張する層、取引を高速かつ安価に処理するL2、複数チェーンをつなぐ相互運用性、機能を分離して組み合わせるモジュラー型チェーンなどをサブセクターで設計 |
DeFi | 金融機能をオンチェーンで再構築するプロトコル群。資金を貸し借りするレンディング、現物を交換するDEX、ステーブルコインやステーキングなどをサブセクターで設計。 |
Trading | パーペチュアルなどデリバティブを扱う取引プラットフォーム。現物中心のDeFiとは分けて切り出し、取引量とそこから生まれる手数料収益が値動きのドライバーとなる系統。 |
Infrastructure | アプリケーションが動くための裏方となるレイヤー。外部データを取り込むオラクル、現実世界の資源をネットワーク化するDePIN、開発者向けのミドルウェアなどをサブセクターで設計。 |
AI | AIに関連するプロトコル群。分散的な計算資源やエージェントなど、暗号資産とAIが交わる領域を扱い、AI市場全体への期待が値動きのドライバーとなる系統。 |
Gaming | ブロックチェーンを取り入れたゲーム、いわゆるGameFi・Web3ゲームの系統。ゲームの利用者数や個々のタイトルの人気が値動きのドライバー。 |
NFT | 唯一性を持つデジタル資産であるNFTと、それを支えるクリエイターエコノミーの系統。作品や権利を売買するマーケットプレイスなどを含み、所有と流通をめぐる需要が値動きに反映。 |
Meme | 話題性を軸とするミームコインの系統。主要ミーム、ネットカルチャー系、政治系、発行プラットフォームなどをサブセクターで設計。SNS上での盛り上がりが値動きの主なドライバー。 |
Privacy | 取引の秘匿性を高めるプライバシー保護技術に関連する銘柄群。取引を外部から追跡されにくくする仕組みを扱い、規制動向との関係が意識されやすい固有の性格を持つ系統。 |
Others | 上記のいずれにも分類しきれない銘柄をまとめた枠。破綻や撤退を経たレガシー系、実物資産をトークン化した系統などを含み、単一のテーマでは括れない多様な性質が混在。 |
セクターの構築にあたっては、まずファンダメンタルの観点から、各プロジェクトが提供している機能や収益の源泉に着目してグループを作りました。もっとも、事業内容だけで機械的に分類すると、実際の市場での受け止められ方とずれることがあります。そこで、グループ分けした後に実際の価格の動きを確認し、マーケット参加者がどの銘柄を近い存在として捉えているかという解釈を交えて、セクターを分け直しています。事業の実態とマーケットの認識という二つの視点を突き合わせることで、実際の値動きと整合的なセクター構成を目指したということです。
なお、L2やModularをScalingとしてL1から切り出したり、DEXを中心とするTradingをレンディング中心のDeFiと分けたりしているのも、機能の違いに加えて、市場がこれらを別のテーマとして扱っている実態を反映したものです。
セクター分類が有効に機能するためには、セクター同士がある程度独立して動くことが望まれます。すべてのセクターが同じように動いてしまえば、わざわざ分ける意味が薄れてしまうためです。
下図は、各セクターのリターンの平均を取り、市場全体のベータの影響を取り除いたうえで、セクター間の相関を見たものです。全体として、それぞれのセクター間の相関はそこまで高くなっておらず、セクターごとに固有の値動きがあることが確認できます。一方で、TradingとDeFiの間には相対的に高い相関が見られます。これは、Hyperliquidなどが含まれるTradingと、Aaveなどが含まれるDeFiが、いずれもオンチェーン金融の新しいインフラとして近い性格を持っており、その近さが実際の価格の連動として表れているものと考えられます。

セクターインデックスの過去の特徴的な動き
セクターインデックスの有用性を確認するため、過去の市場サイクルにおけるセクターごとのパフォーマンスを振り返ります。ここで注目したいのは、市場全体の値動きを除いたセクター単位で見ると、その年ごとに市場を牽引したテーマがはっきりと入れ替わってきたという点です。市場全体の上げ下げだけを追っていては見えないこの循環こそ、セクターという視点を持つ価値を裏づけるものだといえます。以下では、各年に主役となったセクターを順に見ていきます。
2021年:Memeセクターの爆発的上昇
2021年は、新型コロナウイルス感染拡大後の金融緩和を背景に、株式市場と同様に暗号資産市場も大幅な上昇を記録しました。その中でも、DOGEやSHIBに代表されるMemeセクターは市場全体を大きくアウトパフォームしました。特にDOGEはElon Musk氏によるSNSでの発信などを契機に注目を集め、ミームコイン市場全体への資金流入を後押ししました。
下図に示すように、Memeセクターは他セクターを大きく上回るリターンを記録しており、当時はコミュニティやSNSを通じた話題性が価格形成に大きな影響を与えていたことが確認できます。

2023年:Scaling・Gamingへの資金シフト
2022年の市場崩壊を経て、2023年は新たなテーマを模索する局面となりました。
セクターリターンから、市場全体のリターンを差し引いた相対セクターリターンを見ると、2021年から主役だったMemeセクターが相対的に弱含む一方、ScalingやGamingが大きくアウトパフォームしていることが確認できます。
特に、ArbitrumをはじめとするLayer2の成長や、Celestiaに代表されるModular Blockchainという新しいアーキテクチャが市場の注目を集めました。また、Gaming分野ではWeb3ゲーム関連プロジェクトへの投資が継続し、2023年には約29億ドルがゲーム・メタバース関連プロジェクトへ投資されました。市場では初期のPlay-to-Earnモデルから、ゲーム体験やインフラ整備を重視する方向への変化も見られました。

2024年:Memeの復権
2024年は再びMemeセクターが市場の中心となりました。2023年に注目を集めたGaming分野では、トークンエコノミクスや持続可能性への課題が意識される一方、SNSを中心としたコミュニティ主導の投資が再び活発化し、Meme銘柄への資金流入が加速しました。
また、米大統領選を背景にTRUMPやMAGAなどのPolitiFi関連トークンが台頭し、政治イベントが価格形成に影響を与える局面も見られました。さらに、著名人の発言やSNSでの話題性が市場参加者の注目を集め、Memeセクターは他セクターをアウトパフォームしました。
結果として、2024年はコミュニティやナラティブ主導の投資が再び市場を牽引した年と捉えることができます。下図でも、Memeセクターが他セクターを上回って推移している様子が確認できます。

2025年:ビットコインへの集中
2025年は、多くのアルトコインセクターがビットコインに対してアンダーパフォームする局面となりました。市場全体のリターンからビットコインのリターンを差し引いた超過リターンを見ると、多くのセクターがマイナスとなっています。
背景には、米国における現物ビットコインETFへの継続的な資金流入や、機関投資家による投資拡大を受け、ビットコインが独立した資産クラスとして認識され始めたことが挙げられます。
過去のサイクルでは、ビットコインの上昇がアルトコインの上昇へと波及する流れが一般的でしたが、2025年は必ずしもその構図にはならず、ビットコインとアルトコインのパフォーマンス格差が拡大しました。これは、暗号資産市場において資金流入の構造が変化しつつあることを示唆する事例と考えられます。

2026年:AI・Tradingセクターの牽引
2026年は現在までのところ、暗号資産市場全体としては低調な推移となっています。しかし、市場全体の方向性を除去したセクターベースの分析を行うと、AIセクターとTradingセクターが相対的にアウトパフォームしています。
AIセクターでは、AI AgentやAI Infrastructure関連プロジェクトへの期待が継続し、市場全体が低迷する中でも相対的な強さを維持しています。また、Tradingセクターでは、Hyperliquidを中心にオンチェーンデリバティブ市場が拡大し、取引量や手数料収益の増加を背景に高い評価を受けています。
一方で、Scalingセクターでは、Layer2の増加に伴う差別化や流動性の分散について議論が活発化しており、市場ではL2エコシステム全体の持続可能性に対する見直しも進んでいます。
下図に示すように、市場全体が低調に推移する一方で、AIやTradingといった一部のセクターは相対的に強い動きを見せています。このように2026年は、市場全体の方向性よりもセクター間のパフォーマンス格差が大きい環境となっており、セクターインデックスを活用したロングショート戦略やセクターローテーション戦略が有効に機能しやすい市場環境と考えられます。ここまで振り返ってきた各年の動きは、まさにセクターという視点を持つことで初めて捉えられるものだといえます。

まとめ
暗号資産市場はこれまでBTC・ETH・アルトコインといった大まかな分類で語られることが多かったものの、市場の成熟とともに、Layer1、DeFi、AI、Tradingなど、それぞれ異なる成長ドライバーやリスク特性を持つセクターが形成されつつあります。その結果、市場全体の値動きだけでなく、セクター単位で市場を分析・評価する重要性が高まっています。
本稿では、セクターインデックスを活用することで、テーマ投資やリスク管理、ロングショート戦略など、多様な運用手法が可能になることを示しました。また、過去の市場サイクルを振り返ることで、市場全体の方向性だけでは捉えられない資金循環やセクター間のパフォーマンス格差が存在することを確認しました。こうした違いを把握することは、ポートフォリオの構築やリスク管理において重要な意味を持ちます。
今後、機関投資家の参入や金融商品の多様化が進む中で、暗号資産市場においても「どの銘柄を保有するか」だけではなく、「どのセクターに配分するか」という視点は、投資判断や商品設計において一層重要になっていくと考えられます。セクターインデックスは、そのような市場環境において、市場分析やポートフォリオ運用、金融商品の設計を支える有用なツールの一つになるでしょう。
参照URL
CoinGecko Q2 2021 Quarterly Cryptocurrency Report
2021 Yearly Cryptocurrency Report
Dapp Industry Report 2023 - Dappradar
GameFi Report 2023: GameFi Levels Up | CoinGecko
DappRadar Games Report – 2023 Overview - Dappradar
2024 Annual Crypto Industry Report | CoinGecko
Trump MAGA Meme Coins Are the First Experiment in 'PoliFi'
CME + Glassnode: Bitcoin Insight and Market Trends H1 2025