Blockchain Intelligence Research

暗号資産ETFの構成と座組

著者

保坂 哉

保坂 哉

ブロックチェーンインテリジェンス

所属

エグゼクティブサマリー

2024年1月に米国で現物ビットコインETFの取引が開始されたことを皮切りに、暗号資産ETFは大きな注目を集めました。ETF上場により米国機関投資家の投資機会が拡大したことでビットコインは最高値を更新し、米国の年金基金や既存の金融機関に加え、アブダビの政府系ファンドをはじめとするソブリンウェルスファンド、ハーバード大学のような大学基金、さらには各国政府・企業によるビットコイントレジャリー戦略にも組み込まれるようになっていきました。 米国のETF市場は、ビットコインETFを解禁した後に、2025年にはイーサリアムやその他アルトコインへと対象を拡大していきました。現在ではロンドンや香港をはじめ、各国で暗号資産ETFの上場が進み、証券口座から様々な暗号資産を購入できる環境がすでに一般化しつつあります。 日本でもこの流れを追う形で制度整備が進んでいます。具体的には、暗号資産を金商法(金融商品取引法)の規制対象へ移管する改正法が成立し、規制環境が段階的に整いつつあります。これまでの経緯は以下の通りです。 - 2016年5月25日:改正資金決済法成立。日本で初めて「仮想通貨」を法的に定義 - 2019年5月31日:改正資金決済法・改正金融商品取引法が成立。呼称を「仮想通貨」から「暗号資産」に統一し、有価証券性を持つ暗号資産を金商法の規制対象に明確化 - 2025年12月10日:金融審議会報告書公表。暗号資産全体の金商法への移管方針が正式決定 - 2026年3月31日:改正所得税法が成立・公布。申告分離課税20%・3年損失繰越が法律として確定 - 2026年7月15日:金商法改正が成立。暗号資産が金融商品として定義される - 2027年頃:金商法改正の施行 - 2027〜2028年頃:内閣府令・投信法施行令の改正完了。商品申請・審査を経て東証上場へ このスケジュールを踏まえると、日本における暗号資産ETFの成立は2028年前後になると見込まれます。取引開始までにはまだ時間がありますが、だからこそ日本における制度設計・運用体制の検討は早めに着手すべきだと考えます。 米国をはじめとした各国ではすでに制度開始から2年ほどが経過しており、日本での取引開始時点ではその差はさらに広がります。各国が暗号資産ETFについてどのような議論を行い、どのような競争環境にあり、どのような座組で運用を実施しているのかを早期に把握し、日本における運用のイメージを固めたうえで市場に出す必要があります。 本記事では、まず米国でのETF上場効果をデータとともに確認したうえで、日本での組成を前提に、暗号資産ETFと構造的に似たゴールドETFとの差分を3つの軸で整理し、ETFローンチに向けて必要な準備を考察します。

ETFの種類

暗号資産ETFと一口に言っても、その中身は一様ではありません。座組を説明する前に、まずは暗号資産ETFがどういった軸で分類されるのかを考えていきましょう。

現物or先物

第一の軸は、ETFの裏付け資産を何で保有するかという違いがあります。
現物の場合には一般的に現物ETFと呼ばれ、先物で保有する場合には先物ETFと呼ばれます。先物ETFはSpot ETFより審査が簡便であったため現物よりも先に上場しましたが、先物は裏付け資産のポジションを維持するためのコストが継続的にかかるため、長期保有には向かず、価値が目減りしやすいという弱点があります。そのため投資家にとっては現物ETFを保有・取引するケースが主流です。

裏付け資産

経費率(%/年)

iShares Bitcoin Trust(IBIT)

現物

0.25%

ProShares Bitcoin Strategy ETF(BITO)

先物

0.95%

暗号資産の通貨数、通貨の種類

第二の軸は、どういった銘柄をどの割合で組み入れるかという論点があります。暗号資産を一種類のみ組み入れて単体の銘柄に連動するETFも存在しますが、複数の銘柄をバスケットとして組み入れて指数などに連動させるような複合的なETFも市場では存在しています。

現状では単体の銘柄に連動するETFの方が複数の銘柄を組み入れて連動するETFよりも取引は活発です。単体の銘柄に連動するETFの場合には、ビットコインETFであればビットコインへの、イーサリアムETFであればイーサリアムへのエクスポージャーだけを純粋に取りたいという需要に応えるものであり、投資判断が行いやすいことから起因しているものと思われます。

暗号資産業界では、最初にサトシナカモトの設計思想からなるビットコイン以外のトークンをアルトコインと呼びます。市場規模を比較しても大きな差があるため(後述を参照)、ここでもビットコインETFとは分けてアルトコインETFを記載します。

単体の銘柄に連動するETFの種類

  • ビットコインETF(BTC)
  • アルトコインETF
    • イーサリアム(ETH)
    • ソラナ(SOL)
    • ハイパーリキッド(HYPE)
    • その他

一方で複数の銘柄を組み入れて連動するETFが登場した背景には、暗号資産間の値動きの連動性が高いため同一セクターとして管理しやすいことや、個別の暗号資産銘柄を選定するリスクを分散させる狙いがあります。暗号資産市場全体の価格変動はビットコイン価格に強く連動して動く傾向があるため、単一銘柄に集中投資するのではなく、複数銘柄に分散することによりボラティリティを抑制しやすくなります。また、どの銘柄が今後伸びるかを個別に予想することが難しい投資家のために、暗号資産市場全体の成長に賭けたいというニーズにも応える商品設計です。

複数の銘柄を組み入れて連動するETFはさらに、連動対象の設計思想によって性格が分かれます。

  • 指数連動型:あらかじめ定められたルール(時価総額加重など)に基づいて構成銘柄と比率が決まる、パッシブ運用に近い設計
  • アクティブ運用型:運用会社の裁量によって構成銘柄や比率、ステーキングの有無などを決定する設計

単体のビットコインETFであれば内閣府令による特定暗号資産の指定さえクリアすれば組成できますが、複合ETFの場合は組み入れる銘柄すべてが指定を受けている必要があり、かつ指数連動型であれば指数プロバイダー自体の選定という論点も加わります。

したがって日本で最初に解禁されるのはビットコイン単体の現物もしくは先物ETFが最有力であり、アルトコインETFを含むETFや複数銘柄を組み入れるETFは審査の順番がビットコイン単体より後になると考えられます。

運用の有無

第三の軸は、組み入れた資産を運用するかどうかがポイントになります。運用手段としては暗号資産の特性である「ステーキング」を用いる運用方法をとるケースと金融デリバティブを組み合わせるETFも近年登場しているので紹介したいと思います。

ステーキング

アルトコインを取り扱うETFには、対象資産をネットワークにステーキングするかという選択肢があります。ステーキングというのは、一言で説明を行うと暗号資産のネットワーク上に担保資産としてトークンを預けることで、ネットワークの検証に参加する対価として報酬を受け取る運用になります。暗号資産業界では最もスタンダードな運用方法であり、比較的安全性が高い方法となります。ステーキングが可能かどうかは暗号資産銘柄のネットワークが持つ「コンセンサスアルゴリズム」に依存します。PoS系のネットワークであれば、ステーキングを通じてトークンを受け取ることができ、PoW系のネットワークなどではステーキングを行うことができません。説明が長くなってしまうので、ここではステーキングできないトークンと、ステーキングできるトークンがあることを認識いただければ大丈夫です。

コンセンサスアルゴリズム

銘柄例

ETFでの配当の提供

PoS系

ETH、SOL、AVAX、HYPE、SUI、ADA、DOT

可能

PoW系

BTC、BCH、LTC、DOGE

不可能

それ以外

XRP

現状は不可能

ステーキングによる利回りはネットワークごとに基準が概ね決まっており、商品設計側がリスクマージンなどの手数料を差し引いた割合を、顧客への配当として提供される仕組みとなります。

金融デリバティブを組み合わせたETF

近年ではブラックロックが現物ETFに対してオプション取引を加えた「iShares Bitcoin Premium Income ETF(BITA)」が話題になっています。このETFでは、ビットコイン現物以外にコールオプションの売却ポジションを一定割合組み入れることで、現物市場の価格変動を小さくすることを目的としたETFも登場しています。

こうした多様化した投資家のニーズに合わせて、様々な金融デリバティブを組み合わせたETFについても今後は増加すると考えられます。

米国における暗号資産ETF市場の実態

日本でのETF組成を検討するにあたり、まずは先行して上場と取引が既に始まっている米国市場をデータで確認していきましょう。

現物ETFの銘柄構成比

まず初めに、米国で取引されている現物ETFの銘柄構成を見てみましょう。

暗号資産の現物ETFはBTCから始まり、その後SECの審査が通過する毎に対象資産を徐々にアルトコインへと広げていきました。BTCの取引シェアはアルトコインの上場が増えたことで徐々に下がりました。投機熱が高まったタイミングでは瞬間的にアルトコインの比率が50%を超えることもありますが、BTCのシェアは75%程度で安定しています。アルトコインの上場で取引対象は多様化しましたが、取引はアルトコインの中ではイーサリアム(ETH)が圧倒的な大部分を占めています。

現物ビットコインETFの運用資産残高(AUM)の推移

次に、米国における現物ビットコインETFの運用資産残高(AUM)の推移を確認します。

2024年1月11日の取引開始以降、暗号資産に対する投機熱の高まりや暗号資産の価格変動に応じて残高が上下する局面はあるものの、全体としては右肩上がりで預かり資産が積み上がっています。2025年10月に1,500億ドルの最高値を更新した後、しばらく資金流出が続き、2026年8月執筆時点では1,200億ドル規模の運用資産残高で推移しています。

運用会社間のシェア争い

では、実際にどういった資産運用会社が資金を集めているのでしょうか。以下は現物ビットコインETF市場における各社のシェアの推移となります。

現物ビットコインETFのシェアはBlackRockが50%程度を占めており、圧倒的な存在感を持っています。BlackRockを除く2位から5位の資産運用会社は、いずれも10%前後のシェアで競り合っている状況です。

ティッカー

運用会社

経費率(%/年)

強み

IBIT

BlackRock

0.25%

圧倒的な流動性(市場シェア約50%)

最狭スプレッド(0.02%)

機関投資家向け大口執行・オプション市場の厚みで他を圧倒

GBTC

Grayscale

1.50%

深いオプション市場(裁定・ヘッジ取引で機関投資家が利用)

FBTC

Fidelity

0.25%

Coinbase以外の自社カストディ(Fidelity Digital Assets)によるカストディリスクの分散

ARKB

ARK Invest / 21Shares

0.21%

Cathie Wood氏のイノベーション投資思想に共感する層に人気

BITB

Bitwise

0.20%

保有BTCアドレスを公開する透明性重視

暗号資産ネイティブな運用会社としてのブランド

MSBT(参考)

Morgan Stanley

0.14%

2026年4月8日に上場した新興勢力

業界最安値クラスで大手銀行による直接発行

BlackRockが大きなシェアを維持している背景には、業界内で築いてきた機関投資家向けネットワークと圧倒的なETFの流動性があります。IBITの強い市場シェアと最狭スプレッドは、この2つが相互に強化し合った結果とも言えます。一方で、2026年に入ってからは低い経費率を武器にARKBやBITBが運用残高を伸ばしており、先発の流動性優位だけでは安泰ではない状況が生まれつつあります。

この構図は、日本で暗号資産ETFが上場した場合にもそのまま再現される可能性が高いと考えられます。米国の事例が示しているのは、経費率・カストディ体制・ブランドという複数の軸で運用会社間の競争が同時進行するということであり、日本での組成を検討する金融機関にとっても、上場後の競争を見据えた事前の商品設計がカギになると思われます。

ETFの座組

次に実際に暗号資産ETFを組成すると仮定した際のステークホルダーを整理します。

AP(指定参加者)

ETFの設定・交換(新規発行と償還)は、AP(Authorized Participants、指定参加者)と呼ばれる一部の専門業者のみが行うことができます。指定参加者になれるのは、取引所の資格を持つ証券会社など一部の業者に限られます。

ETFの設定・交換は、創設単位(クリエーションユニット)と呼ばれる大口単位で行われるため、個人投資家が1株単位で申し込むことはできません。創設単位は銘柄によって異なりますが、一般的には数万口単位です。設定・交換時に受け渡す資産には、原資産などの現物バスケットを用いる方式と、現金を用いる方式があります。採用される方式は、商品や市場の制度によって異なります。こうした大口取引に必要な資産や現金を用意できるAPが、ETFの設定・交換を申し込みます。

運用会社(委託者)

運用会社は、ETFという商品そのものの設計と、日々の運用判断・指図を行う機関です。具体的には、投資方針や連動対象指数の選定、信託約款・目論見書の策定、信託報酬をはじめとする商品全体のコスト構造の設計までを担います。

ETFは「委託者指図型投資信託」という仕組みで組成されており、運用会社(委託者)・信託銀行(受託者)・投資家(受益者)という三者構造の中に位置づけられます。運用会社は自ら資産を保有するのではなく、あくまで「何をどれだけ売買するか」を指図する立場にあり、実際の資産の買い付けや保管といった実務は信託銀行に委託しています。これは投資家の資産を運用会社自身の財産と切り離して保全する(倒産隔離)ための仕組みでもあります。

また、運用会社になるには金融商品取引法上の投資運用業の登録を受けた金融商品取引業者である必要があり、誰でも自由にETFを組成できるわけではありません。

信託銀行(受託者)とカストディアン

信託銀行は、運用会社(委託者)からの指図を受けて、ETFに組み入れる資産の買い付けや保管を実際に行う機関です。ETFの受託者として資産を保有するため、投資家の資産は信託銀行自身の固有財産とは分別管理され、信託銀行が万が一破綻しても投資家の資産は保全される仕組みになっています。

ゴールドETFや株式ETFの場合は、信託銀行自身が買い付けから保管までを一貫して担うことができます。一方、暗号資産ETFの場合は秘密鍵の管理という特殊な論点があり、信託銀行だけでは対応が難しいため、秘密鍵管理を専門に行うカストディアンと呼ばれる機関を利用するケースが多くなります(詳細は後述します)。カストディアンは信託銀行等からの指示を受けて、ETFのために購入すべき数量の暗号資産を暗号資産取引所から購入し、秘密鍵とともに保管する役割を担います。

つまり、資産保全の責任主体はあくまで信託銀行であり、暗号資産のように専門的な管理技術が必要な資産については、その実務をカストディアンに再委託する、という構造になっています。

指数プロバイダーと参照価格

指数プロバイダーは、暗号資産やコモディティのように取引の場が複数の取引所・市場に分散している資産について、ETFの基準価格算出に用いる「参照価格」を提供する機関です。運用会社が連動対象指数を選定する際には、どの指数プロバイダーの参照価格を採用するかも合わせて決定します。

参照価格とは、複数の取引所・市場の価格を一定のルールで集約し、特定時刻における公正な基準価格として算出したものです。単一の取引所の価格をそのまま採用すると、その取引所固有の価格操作や流動性不足による歪みの影響をそのまま受けてしまいます。複数市場のデータを合成することで、特定市場の異常値に左右されにくい、信頼性の高い価格を算出しているわけです。

この参照価格が存在しなければ、信託銀行はETFの基準価格を日々計算できず、運用会社も投資方針通りに運用できているかを判断できません。そのため指数プロバイダーは、表には出にくいものの、ETFの裏側を支える必須のインフラという位置づけになります。

APによる裁定機能

このようにして発行されたETFはまずAPが保有し、市場に流動性を供給する形で投資家に売却されます。APはここからさらに、以下の裁定行動を通じてETF価格を原資産価値に収れんさせる役割を担います。

  • ETF価格が原資産価値より高くなりすぎた場合:原資産を購入してETFを新規発行し、市場でETFを売却
  • ETF価格が原資産価値より安くなりすぎた場合:市場でETFを購入し、運用会社に交換(償還)を請求して原資産を受け取り売却

この裁定メカニズムにより、ETFの市場価格とNAV(純資産価値)の乖離、いわゆるプレミアム・ディスカウントは一定の範囲内に収まる構造になっています。

株式ETF・ゴールドETF・暗号資産ETFの座組比較

ここまで見てきた座組は、主に株式ETFを念頭に置いたものです。株式ETFの場合、原資産である個別株式は単一の取引所で明確な価格が観測できるため、参照価格の算出や特殊な保管体制を必要としません。

一方、ゴールドETFは現物の金の地金を物理的に保管する必要があり、かつ単一の取引所価格が存在しないため参照価格の算出が必要になるという点で、株式ETFよりも座組が複雑になります。

暗号資産ETFは、このゴールドETFに最も近い構造を持ちます。現物を保管する必要があり、単一の取引所価格が存在しない点が共通しているためです。しかし、ゴールドETFの座組をそのまま暗号資産に適用することはできず、秘密鍵管理をはじめとする暗号資産特有の性質に寄り添った設計が必要になります。

今回は、株式ETF・ゴールドETFとの差分を見ながら、暗号資産ETFに必要な座組を理解していきましょう。

株式ETF

ゴールドETF

暗号資産ETF

裏付け資産の保管

証券保管振替機構等の電子的な帳簿管理

保管銀行の金庫で現物地金を割当保管

カストディアンへ秘密鍵の管理を依頼する

盗難リスク

存在しない

物理的警備で管理

秘密鍵を物理的警備で分散管理(コールドウォレット)
一度流出すると取り返せない

参照価格

取引所の終値をそのまま使用

LBMA金価格(業界標準ベンチマークが確立済み)

業界標準が定まっていない。指数プロバイダーが必要

原資産の取引時間

取引所の営業時間

ロンドンOTC中心にほぼ24時間

24時間365日、無休

銘柄選定

組入基準が明確(前例が豊富)

選定問題が生じない

数万銘柄から適格性を判断する必要がある(基本的にはJVCEA認可の暗号資産になると思われる)

① 裏付け資産の保管・盗難リスク(所有権が秘密鍵と一体)

ゴールドETFの発行時には、買い付けた量と同量のゴールドを信託銀行が現物で保管する必要があります。ゴールドの移送には物理的な時間とコストがかかりますが、これは裏を返せば、盗難が発生しても物理的な追跡と回収の余地があるということでもあります。

暗号資産はその逆です。秘密鍵でトランザクションに署名すれば、移送は秒単位・ほぼゼロコストで完了します。しかしそれは、流出や誤送付が起きた場合も同じく秒単位で完了し、原則として回収不能であることを意味します。ゴールドは金庫にある限り鍵を紛失しても所有権自体は失われませんが、暗号資産は秘密鍵を管理する者が実質的な所有者であるため、鍵の喪失がそのまま資産の喪失になります。

つまり暗号資産のカストディでは「保管」と「アクセス統制」が分離できません。マルチシグ、鍵の分散保管、権限管理、承認フローといった設計そのものが保管の一部になり、資金移動が容易であるがゆえに、事前の内部統制設計がすべてを決めます。主要なカストディアンが暗号資産特有の保険に加入し、流出時の金銭的補償を手当てしているのも、この不可逆性リスクへの対応です。

米国の場合にはこのカストディアン選定でコインベース社が選ばれることが多く、コインベースに暗号資産のカストディが集中していることが問題となっています。暗号資産のカストディが集中することで、盗難を行う側から考えると盗難の標的にされやすいという弱点があります。

日本では、暗号資産の管理のみを行う場合も暗号資産交換業の登録対象です(2020年5月施行の改正資金決済法)。したがって保管の担い手は、金融庁登録の暗号資産交換業者、または暗号資産カストディ業務の体制確認を受けた信託銀行になります。信託銀行については2022年の内閣府令改正で業務が可能になりました。

②参照価格(暗号資産の確固たる指数がない)

参照価格とは、複数の取引所・市場の価格を一定のルールで集約し、特定の時刻における公正な基準価格として算出したものです。単一の取引所価格をそのまま使うと、価格操作や流動性不足による歪みの影響を直接受けるため、複数市場のデータを合成することで信頼性を担保しています。

指数プロバイダーは、コモディティなど市場が分散している資産を取り扱う場合に必要な参照価格を提供する機関となります。

ゴールドの場合

ゴールドの場合、ロンドン貴金属市場協会(LBMA)が算出する「LBMA金価格(LBMA Gold Price PM)」を用いるのが慣例となっています。ロンドン時間午後に、ICEベンチマーク・アドミニストレーションの運営のもと、少数の認定参加行による電子オークション方式で算出されます。参加行が売買の注文量を提示し合い、需給が釣り合う1つの価格を見つける仕組みです。

ゴールドの現物取引は、少数の大手金融機関に集中する形でOTC市場が形成されているため、この少数の参加行によるオークションだけで、市場全体を代表する公正な価格を作ることができます。NAV算定用にも、1日1回のこの公式な基準価格(LBMA金価格PM)があれば足ります。

ビットコインの場合

ビットコインの場合には、単一の中心的な取引所や、少数の信頼できるプレイヤーに取引が集中する構造が存在せず、世界中の複数取引所に分散し、24時間365日休みなく取引が行われています。個々の取引所の価格は、流動性や操作耐性の観点から単独では信頼できません。

さらに、ゴールドのような「引け」が存在しないことも設計上の課題になります。引けのある市場では、取引終了時刻に向けて注文が自然に集中するため、その瞬間の価格はすでに多くの参加者の需給を反映しており、一部の取引だけで動かすことが困難です。ビットコインにはこの「注文が集中する瞬間」がなく、ある一瞬の価格をそのまま採用すると、その瞬間の薄い出来高につけ込んだ操作を受けるリスクがあります。

そこで米国では、CME CFビットコイン参考基準レート(BRR、または米国株式市場の引けに同期させたニューヨーク時間版はBRRNY)が一般的にETF基準価格算定のために用いられています。CME傘下の第三者機関であるCF Benchmarksが、CME CF Constituent Exchange Criteriaに準拠した複数の暗号資産取引所の取引データを集約して算出するもので、主要な現物ビットコインETFのNAV算出根拠として採用されています。

BRRは、基準時刻(ロンドン時間16:00など)に向けた一定の計算ウィンドウを設定し、それをさらに複数の観測区間に分割したうえで、区間ごとに複数の取引所の出来高加重平均価格を算出し、それらを統合するという方法を取っています。単一の瞬間ではなく一定の時間幅を、単一の取引所ではなく複数の取引所を組み合わせることで、マーケットの引けが本来持っている、注文集中による操作耐性を持ちます。

つまりゴールドは、取引が少数の信頼できる大手金融機関に集中し、かつオークションという注文集中の瞬間を意図的に作れるため、指数は1つ(LBMA金価格PM)で足ります。一方ビットコインは、取引が複数取引所に分散し、かつ24時間365日稼働していて自然なマーケットの引けが存在しないため、時間幅と取引所の両方を分散させた集計方法などの作り込まれた設計が必要になります。これは暗号資産特有の課題になります。

日本の場合は、2026年8月時点で暗号資産ETF自体が未承認であり、確固たる公的な参照指数はまだ存在していません。組成を検討する金融機関が決めるべきことは、少なくとも次の4点となります。

  • どの取引所の価格を採用するか(国内取引所のみか、海外主要取引所を含めるか)
  • どのように集約するか(出来高加重平均、中央値、外れ値除外のルール)
  • どのタイミングで算定するか(基準時刻の設定、日本時間との整合)
  • 算定主体をどうするか(自社算定か、第三者指数プロバイダーの利用か)

この参照価格が存在しない場合にはETFのNAVを計算できず、基準価格が公開できないため、信託銀行や運用会社にとって必須の指標となります。日本国内で利用可能な参照指数はまだ選択肢が限定的であり、組成を検討する金融機関にとって設計裁量が最も大きく、かつ専門的な検討を要する領域になります。

③銘柄選定

ゴールドとは異なり、暗号資産は数万銘柄が存在し、どれをETFに組み入れられるかという適格性判断が必要になります。日本の場合、この選定は大きく分けて2段階のステップを踏むと考えられます。

Step1. JVCEAの審査

暗号資産ETFを組成するには、投資信託法上の「特定資産」(投信法2条1項)に暗号資産が加わる必要がありますが、現状は含まれていません。この特定資産への追加がどの銘柄を対象にするかは今後次第ですが、海外取引所限定の銘柄や国内で流通実績のない銘柄が優先されるとは考えにくく、実質的に国内の登録済み暗号資産交換業者が取り扱っている銘柄が母集団になると考えられます。

国内の暗号資産交換業者が新規に銘柄を取り扱う際は、JVCEA(一般社団法人日本暗号資産等取引業協会)の審査を経る必要があります。JVCEAは金融庁から認定を受けた自主規制団体で、会員である国内の暗号資産交換業者が加盟し、上場する銘柄の安全性・信頼性を審査する役割を担っています。JVCEAは技術的な安全性やAML/KYC対応などの基準に基づいて銘柄を審査し、通過した銘柄群が「ホワイトリスト」と呼ばれており、国内の暗号資産取引所に上場している銘柄は全てこちらの審査を通過しています。

これらの国内取扱銘柄を土台として、2026年7月15日に金商法及び資金決済法の改正法が成立し、暗号資産を資金決済法の管轄から金商法の管轄に移管し、正式に「金融商品」として位置づけることが法律上決定しました。ただし、この改正法は段階的に施行される設計になっており、暗号資産を金融商品として位置づける中核部分(開示規制・インサイダー取引規制の導入など)はまだ施行されておらず、2027年度中の施行が見込まれています。

Step2. 政令(投資信託法施行令)による指定

取り扱う銘柄についてはJVCEAの審査を通過した銘柄に限定された中で、想定されている判断軸(流動性、時価総額・市場規模、情報開示の可否、コンプライアンス体制、海外でのETF承認実績等)を踏まえて、投資信託法施行令を改正し「特定資産」に暗号資産を追加する形で個別指定が行われます。つまり、国内取扱実績があるだけでは足りず、この政令改正による個別の指定が下りて初めて、ETFへの組入れが可能になります。

象徴的な動きとして、金融庁は2026年8月7日付の組織改編で「暗号資産・ステーブルコイン課」を新設しました。これは2018年の検査局廃止以来8年ぶりの大規模な組織再編の一環で、暗号資産・ステーブルコイン分野を専門に扱う課が独立して設けられたことになります。この新設課が、JVCEAのリスト(ホワイトリスト等)に載っている銘柄の中から、政令で指定する対象銘柄を実質的に審査・選定していく主体になると見込まれます。

参考: 米国の経緯

米国ではSEC(証券取引委員会)が暗号資産における個別銘柄ごとに証券該当性を審査する時代が長く続きました。多くのアルトコインが未登録証券の疑いで摘発の対象となり、証券性を巡る議論が数年にわたって続きましたが、2025年にトランプ大統領が就任したことをきっかけにSECの委員長が交代し、暗号資産に対する証券該当性の方針が緩和され始めます。

まず2025年9月、SECは「汎用上場基準(generic listing standards)」を承認しました。これにより、コモディティ型トラストとして設計されたETFは、これまでの個別審査(最長240日程度かかる手続き)を経ずに、取引所が定める共通基準を満たせば上場できるようになり、アルトコイン現物ETFの上場プロセスが大幅に簡略化されています。そして2026年3月、SECとCFTC(商品先物取引委員会)が共同でビットコイン・イーサリアムを含む主要な暗号資産を「デジタルコモディティ」と正式に分類し、証券ではないとして証券該当性を巡る議論に一区切りがつきました。今後は、議会で議論されているCLARITY法案(暗号資産市場構造法案)が成立することにより、行政解釈にとどまっていた暗号資産の位置づけが法律レベルで明確になると考えられます。

まとめ

日本における暗号資産ETFの成立は2028年前後と見込まれますが、制度が整うことを想定した準備を行うことで、ETFの競争力を強化することができます。米国の事例が示す通り、上場後の運用会社間の競争は経費率・カストディ体制・ポジショニングという複数の軸で同時進行し、先行者優位は決して絶対的なものではありません。

米国の座組を参考にしながら自社としての設計仮説を持ち、政令が公布された際に商品申請へ移行できる体制を整えておくことが、日本における暗号資産ETF市場の初期シェアを左右することになります。