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機関投資家向けDeFiが2度目の挑戦に入った 担保をトークン化国債に入れ替えて再始動

機関投資家向けDeFiとは、本人確認や担保の適格性審査といった規制対応をプロトコルの内側に組み込み、金融機関が利用できるようにしたオンチェーンの貸借市場です。誰でも参加できる公開市場と同じ自動執行の仕組みを、参加者を限定した形で使います。

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執筆
キリフダ株式会社

この記事の要点

  • 2022年のAave Arcは30社が審査を通過したのに預入残高が最大でも約13億円(800万米ドル)にとどまり、同年11月にほぼ空になった
  • 方式は3つに分かれた。許可制市場型のAaveホライズン、組込み型のMorpho、審査型クレジットのMaple Financeである
  • 再挑戦で入れ替わったのは担保と資金の出し手で、担保はトークン化した国債・MMFに、貸し手は公開市場につながる資金になった
  • 規模は米国の証券担保ローン残高(約22兆円、2024年第1四半期)の1%未満だが、残高10億米ドルあたりの人員は銀行業の13分の1と推定される
  • 許可制市場はまだ採算に乗っておらず、預入に対する借入も3分の1にとどまる

機関投資家向けDeFiとは規制対応を内側に組み込んだ貸借市場のこと

審査を通した相手にだけ貸す市場を、審査部門を持たずに運営する——。銀行が数百人の与信担当者を抱えて行ってきた担保貸出を、機関投資家がプログラムに任せ始めています。Aave(アーベ)は2025年8月に機関専用の市場「Horizon(ホライズン)」を立ち上げ[1]、Morpho(モルフォ)は金融機関や取引所の貸出商品の裏側に採用されました[2]。何がどう動き、どこまで進んだのかを既存の証券担保ローンと対比しながら解説します。前編にあたる本稿では仕組みと規模を扱い、誰が担い誰が収益を得ているかは後編で扱います。

機関投資家向けDeFi(Institutional DeFi)とは、本人確認や担保の適格性審査といった規制対応をプロトコルの内側に組み込み、金融機関が利用できるようにしたオンチェーンの貸借市場です。金利の決定・担保の評価・返済不能時の清算をプログラムが自動で行う点は誰でも参加できる公開市場と同じで、異なるのは参加者と担保が事前に限定されていることだけです。

実装は3つの方式に分かれました(図1)。参加資格を絞った市場を別に立てる許可制市場型がAaveホライズン、金融機関が自社商品の裏側に貸出プロトコルを敷く組込み型がMorpho、専門の審査会社が借り手を審査して貸す審査型クレジットがMaple Finance(メイプル・ファイナンス)です。前者2つでは与信の判断が担保比率の計算に置き換わりますが、審査型では人が借り手を審査する点が既存の私募クレジットに近くなります。

機関投資家向けDeFiの3方式を比較した表。許可制市場型は審査済みの機関のみがトークン化国債を担保に借りる。組込み型は取引所や銀行のアプリが窓口となる。審査型クレジットは専門の審査会社が与信を判断する
図1 許可制市場型・組込み型・審査型クレジットの違い

2022年のAave Arcはなぜ失敗し、今回は何が変わったのか

最初の試みは失敗に終わっています。Aaveは2022年1月に許可制プール「Aave Arc」を開始し、暗号資産管理基盤のFireblocks(ファイアブロックス)が30社の金融機関を審査して参加を認めました[3]。しかし預入残高は600万米ドルから800万米ドル程度で頭打ちとなり、2022年11月には1社が資金を引き揚げたとみられる時点でほぼ空になりました[4]。金額にして最大でも約13億円(800万米ドル)です。

Aave Arcが伸びなかった理由は、参加者を絞ったことで市場そのものが孤立した点にあります。担保にできるのは公開市場と同じ暗号資産で、機関が特別に持ち込める資産はありませんでした。貸し手も30社に限られたため、流動性が薄く金利条件も劣ります。審査を通す手間をかけて、条件の悪い市場に入る理由がなかったのです。

2025年以降の再挑戦は、この2点をどちらも入れ替えました。担保はトークン化した国債・MMF(マネー・マーケット・ファンド)、つまり機関だけが持ち込める資産に変わります。貸し手も、囲い込まれた30社から公開市場につながる資金に代わりました。Aaveホライズンは、機関が持ち込んだ担保に対して外部の流動性から貸し付ける構造を採っています[1][5]

前提として、担保になる資産の側が育ちました。トークン化された米国債・MMFは約1.6兆円(100億米ドル)に達し、ブラックロックのBUIDLが約4,000億円(25億米ドル)、フランクリン・テンプルトンのBENJIが約1,320億円(8.28億米ドル)を占めます(2026年5月時点)[6]。2022年時点では担保にできる規制商品がそもそも存在しませんでした。

3つの方式はそれぞれどう動くのか

Aaveホライズンは担保を限定して許可制の市場を立てる

Aaveホライズンは、Aave V3のプログラムを許可制の設定で別に立ち上げた市場です[1]。借り手はトークン化されたMMFや国債ファンドを担保として預け入れ、USDC・RLUSD・GHOといったステーブルコインを借ります。開始時点の担保にはSuperstateの短期国債ファンド(USTB)とCentrifugeが組成したヤヌス・ヘンダーソンの商品(JTRSY、JAAA)が含まれ、VanEck、WisdomTree、Securitize、ハミルトン・レーンなどが立ち上げ時の参加者に名を連ねました[1][5]

設計上の要点は、担保資産の発行体が権限を持ち続けることです。ファンドの発行体が保有者を管理しているため、清算が起きた場合も担保が誰にでも渡るわけではありません。担保が動く先を適格な投資家の範囲に限る。この制約を入れることで、証券法上の移転制限を守りながら自動清算を成立させています。

Morphoは審査を自ら行わず、窓口となる事業者に任せる

Morphoの立場はこれと対照的です。プロトコル自身は誰でも使える公開市場のまま置き、本人確認や顧客管理は窓口となる事業者の責任範囲に残します。2025年に公開されたVaults V2では、預入・引出の可否を判定する外部の契約(ゲートコントラクト)を差し込めるようになり、本人確認済みの利用者だけを受け入れる運用が可能になりました[7]。規制対応を必要とする事業者は、この仕組みで自社の顧客だけに閉じた運用商品を組み立てます。

2025年6月に発表されたMorpho V2は、金利と期間を固定した貸借を可能にする構想でした[8]。従来のDeFiの貸出金利は資金の利用率に応じて刻々と変わります。調達コストを事前に確定できないことが、企業や金融機関にとっての障害でした。この構想のうち運用枠の部分が先にVaults V2として動き、固定金利・固定期間の市場はMidnight(ミッドナイト)という別のプロトコルとして2026年7月にBase上で公開されました[9]

Midnightでは貸し手と借り手が希望条件を提示し、ソルバーと呼ぶ執行の担い手が条件の合う相手を突き合わせます。開始時はcbBTCを担保にUSDCを借りる市場が満期別に用意されました[9]。変動金利で動く既存のMorphoと併存し、Morphoはトークン化した実物資産・仕組み信用・レポ型の取引への適用を想定しています[9]。既存の銀行融資やレポ取引に近い条件を、オンチェーンで組めるようにする試みです。

Maple Financeは専門の審査会社が借り手を審査する

3つ目の方式は、与信判断を担保比率に還元しません。Maple Financeは、取引会社・マーケットメイカー・暗号資産ファンドといった機関の借り手に対し、専門の審査会社が運営する資金枠からUSDCを貸し出す仕組みです[10]。運用資産は約7,330億円(46億米ドル、2026年時点)に達し、機関向けの貸出の場としては最大規模にあります。担保付きの枠に加えて審査に基づく信用供与の枠を持つ点が、AaveホライズンやMorphoとの構造的な違いです。

Mapleの主力商品syrupUSDC・syrupUSDTは、この貸出から生まれる利回りを本人確認なしで持てるトークンに包み直したものです。2026年6月時点の残高は約5,730億円(36億米ドル)[10]。私募クレジットのファンド持分を上場投信のように売り出す構図に近いといえます。

規模は証券担保ローン市場の1%未満だが人員は13分の1で足りる

比較の対象になる既存金融の業務は、保有する有価証券を担保に資金を借りる証券担保ローンです。米連邦準備制度理事会(FRB)の調査によると、米国の証券担保ローン残高は約22兆円(1,380億米ドル)で、消費者信用全体の2.7%を占めます(2024年第1四半期時点)[11]。この数字と並べると、オンチェーン側の現在地がはっきりします(表1)。機関向けに設計された市場に限れば、規模はまだ小さいままです。

表1 機関投資家向けDeFiと米国の証券担保ローン市場の規模比較
指標金額時点出所
米国の証券担保ローン残高約22兆円(1,380億米ドル)2024年第1四半期[11]
Aaveホライズンの預入残高約960億円(6億米ドル)2026年1月[12]
Aaveホライズンの借入残高約320億円(2億米ドル)2026年1月[12]
Maple Financeの運用資産約7,330億円(46億米ドル)2026年[10]
Coinbase経由の累計貸出額約3,460億円(21.7億米ドル)2026年4月14日[13]
Morphoの総預入額約1.8兆円(110億米ドル)2026年6月[2]
Aaveの累計貸出額約159兆円(1兆米ドル)2026年2月[14]

Aaveホライズンの預入残高は米国の証券担保ローン残高の0.4%程度にすぎません。累計貸出額が1兆米ドルを超えたと報じられたAave全体と比べても、ホライズンが占める割合はごくわずかです[14]。「機関投資家がDeFiに殺到している」という表現は、少なくとも残高の面では正確ではありません。

運営に必要な人員は残高あたりで13分の1と推定される

規模で劣る一方、同じ残高を運営するために要する人員には大きな差があります。Tracxnの集計によるとMorphoの従業員は約70人で、総預入額110億米ドル(約1.8兆円、2026年6月時点)をこの人数で運営しており[2][15]、残高10億米ドルあたり約6人という計算になります。これに対し米国のFDIC(連邦預金保険公社)加盟金融機関は、総資産25.3兆米ドル(約4,030兆円)に対して常勤換算204万7,142人を雇用しており(2025年12月末時点)[16]、残高10億米ドルあたり約81人です。比率にして約13倍の開きがあります(図2)。

残高10億米ドルあたりの人員を比較した棒グラフ。米国のFDIC加盟金融機関が約81人であるのに対し、Morphoは約6人
図2 残高あたりの運営人員の比較

採算・資金需要・清算・規制の4つが当面の限界になっている

許可制市場はまだ採算に乗っていない

最も直視すべき事実は、機関向け市場がまだ稼げていないことです。Aaveのガバナンス上の議論では、ホライズンが生んだ収益は累計で約1,600万円(10万米ドル)にとどまる一方、Aave DAOが利用を促すために投じた費用は約8,000万円(50万米ドル)に上ると指摘されました[17]。差し引きでは損失です。参加する金融機関の名前が並ぶことと、事業として成立することは別の問題です。

預入に対する借入は3分の1にとどまっている

資金フローを見ると、集まっているのは担保であって借入需要ではありません。The Cryptonomistの集計では、ホライズンは2026年1月時点で預入が約960億円(6億米ドル)、借入が約320億円(2億米ドル)で、預入に対する借入の比率は3分の1にとどまります[12]。担保を差し入れた機関の多くが資金を引き出していない、つまり「使える状態にはしておく」段階にあり、資金調達の手段として常用する段階には至っていないと読むのが自然です。

この構造は金利環境に左右されます。担保となる国債ファンドの利回りが高いうちは、それを売らずに借りる動機が働きます。逆に米国の政策金利が下がれば、ファンドを持ち続ける動機も、それを担保に借りる動機も同時に弱まります。既存の証券担保ローンと同じ金利感応度を、より小さい残高で抱えている状態です。

担保の質は高いが清算はすぐに実行できるとは限らない

担保の質そのものは高い水準にあります。短期国債・MMFをトークン化した資産は既存金融の基準でも上位の担保で、値動きが小さく、価格急落による連鎖清算が起きにくい資産です。制約は清算の実効性のほうにあります。トークン化されたファンドは発行体が保有者を管理しているため、返済不能が起きても担保を市場で即座に売却できるとは限りません。適格な投資家の範囲でしか担保が動かない設計は、証券法を守るためのものであると同時に、清算の速さというオンチェーンの利点を削ぐ制約でもあります。

担保の発行体と運用の管理者への集中も残ります。誰が担保を供給し、誰が資金の配分を決めているかは後編「機関投資家向けDeFiは6つの役割に分業した」で扱います。

規制の枠組みはまだ定まっていない

規制面の整備は各国で進行中です。金融活動作業部会(FATF)は2026年7月21日に「DeFiに係る規制上の課題に関する報告書」を公表し、分散型の仕組みにおける責任主体の特定が課題として残ることを指摘しています[18]。日本では2026年7月21日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2026」(骨太方針2026)にオンチェーン金融の推進が明記され、トークン化預金やステーブルコインによる資金決済が政策の対象として位置づけられました[19]。方向としては前進していますが、機関の貸借に適用される具体的な規制はまだ固まっていません。

残高より先に、貸出の原価が変わった

  • 機関向けの許可制市場は米国の証券担保ローン残高の1%未満にとどまり、収益も出ていない。規模の面では既存金融に迫っていない
  • 2022年との違いは担保と資金の出し手にある。担保はトークン化した国債・MMFに、貸し手は公開市場につながる資金に入れ替わった
  • 残高10億米ドルあたりの運営人員は銀行業の13分の1と推定される。この差は、規模が追いつく前に金融機関の商品原価の前提を変える

よくある質問

機関投資家向けDeFiとは何ですか
機関投資家向けDeFiとは、本人確認や担保の適格性審査といった規制対応をプロトコルの内側に組み込み、金融機関が利用できるようにしたオンチェーンの貸借市場です。金利の決定・担保の評価・清算を自動執行する仕組みは公開市場と同じで、参加者と担保が事前に限定される点が異なります。
Aave・Morpho・Maple Financeの違いは何ですか
参加者の位置づけと与信の判断者が違います。Aaveホライズンは審査を通した機関だけが参加する許可制の市場を立て、機関を利用者として迎えます。Morphoは公開市場のまま置き、本人確認を窓口の事業者に任せることで、機関が自社商品の裏側に組み込めるようにします。Maple Financeは専門の審査会社が借り手を審査して貸す方式です。中心にあるのは人の与信判断であり、この点が2社と異なります。
Aaveホライズンの仕組みはどうなっていますか
Aaveホライズンは、トークン化された国債ファンドやMMFを担保にUSDC・RLUSD・GHOといったステーブルコインを借りる許可制の市場です。2025年8月にAave V3を許可制の設定で立ち上げたもので、VanEck、WisdomTree、Securitize、ハミルトン・レーンなどが参加しています。預入残高は約960億円(6億米ドル)、借入残高は約320億円(2億米ドル)です(2026年1月時点)。
機関投資家向けDeFiは既存の証券担保ローンと何が違いますか
仲介の段階数と実行速度が違います。既存の証券担保ローンでは証券会社・銀行の審査部門・カストディアンの3段階の仲介が入り審査に数日を要しますが、オンチェーンでは与信判断が担保比率の計算に置き換わり、実行は数十秒で休日や夜間も動きます。一方で規模は米国の証券担保ローン残高(約22兆円、2024年第1四半期)の1%未満にとどまります。
2022年のAave Arcはなぜ失敗したのですか
市場が孤立したためです。Fireblocksが30社の金融機関を審査して参加を認めましたが、担保にできるのは公開市場と同じ暗号資産のみで、貸し手も30社に限られたため流動性が薄く金利条件も公開市場に劣りました。預入残高は最大でも約13億円(800万米ドル)で頭打ちとなり、2022年11月にほぼ空になっています。
機関投資家向けDeFiのリスクは何ですか
主に4つあります。許可制市場がまだ採算に乗っていないこと(ホライズンの累計収益は約1,600万円で誘因費用を下回る)、預入に対する借入が3分の1にとどまり資金需要が追いついていないこと、トークン化ファンドは発行体が保有者を管理するため清算を即座に実行できるとは限らないこと、スマートコントラクトの欠陥と審査型における与信判断の質に依存することです。
機関投資家向けDeFiの主なプレイヤーは誰ですか
担保資産の発行体・貸借の場・資金の出し手・運用の管理者・顧客の窓口・銀行自身の基盤の6つに役割が分かれています。既存金融の名前は担保の発行体と顧客の窓口に集中し、貸借の場と運用の管理はオンチェーン専業が握っています。役割ごとの顔ぶれと規模は後編「機関投資家向けDeFiは6つの役割に分業した」で扱っています。

用語集

機関投資家向けDeFi
本人確認や担保の適格性審査を組み込み、金融機関が利用できるようにしたオンチェーンの貸借市場。
許可制プール
参加資格を審査で限定した貸借市場。Aave ArcやAaveホライズンが採用する方式。
トークン化MMF
短期国債などで運用するマネー・マーケット・ファンドの持分をブロックチェーン上のトークンとして発行したもの。
審査型クレジット
専門の審査会社による与信判断に基づいて貸し出す方式。担保比率の計算に還元しない。Maple Financeが代表例。
証券担保ローン
保有する有価証券を担保に資金を借りる取引。機関投資家向けDeFiに最も近い既存金融の業務。
ゲートコントラクト
運用枠への預入・引出の可否を判定する外部の契約。本人確認済みの利用者に限る運用を可能にする。