Blockchain Intelligence Research

Hyperliquidは既存金融市場のインフラになれるか

著者

山口 睦生

山口 睦生

Head of Blockchain Intelligence

所属

エグゼクティブサマリー

最近、Hyperliquid上でSK Hynix(メモリー半導体の株式)の24時間出来高がBTCの出来高を超えたことが話題になりました。Hyperliquidはもともと暗号資産の永久先物取引を中心とした分散型取引所でしたが、近年は株式やコモディティなど、現実世界に存在する資産をオンチェーンで取引できるRWA(Real World Assets、リアルワールドアセット)へと取引の幅を広げています。 この記事では、Hyperliquid上の出来高データやファンディングレートを分析しながら、なぜ株式やコモディティといった様々な資産クラスがHyperliquid上で取引されるようになったのかを考察し、Hyperliquidが既存の金融取引に対して持つ優位性と課題を最新のデータを踏まえながら検討していきます。

Hyperliquid上のRWA取引の傾向

メモリー半導体の事例

2026年上半期、世界的なメモリー半導体の供給ひっ迫が騒がれたことをきっかけに、メモリー半導体銘柄の株価が急騰しました。米国ではMicron Technology、韓国ではSamsungやSK Hynix、日本ではNAND半導体の主要サプライヤーであるキオクシアホールディングスの株価が大きく上昇しています。

Micron Technologyを例に挙げると、2026年初来から6月の高値まで株価は約4倍に急騰し、大きな注目を集めました。こうした急騰銘柄への投資機会を求めて、各国の投資家は様々な投資手段を検討し、暗号資産を利用したHyperliquidのPerpsに対してもアクセスをするようになったと考えられます。

以下の図は週足ベースで各アセットの出来高($)を追ったものですが、2026年5月頃からMicron Technology、SK Hynix、Samsungといったメモリー半導体銘柄に対するHyperliquid上の出来高が急増したことが分かります。

2026年1月頃に金価格が最高値を更新した際には金・銀の取引が活発化し、2026年3月にはイラン情勢の悪化をきっかけに原油先物の取引が活発化しました。

Hyperliquid上のRWA取引は、その時々で大きく注目を浴びているアセットに集中して大きく伸びる傾向があります。

では、こういったの投資家はHyperliquid上でどのようなポジションを形成しているのでしょうか。以下の図はSK HynixのHyperliquid上での株価とファンディングレートの推移となります。

SK Hynixの例では、2026年3月から7月末までの24時間当たり平均で、通常の水準を大きく上回るファンディングレートが取られてもなおロングポジションを形成する投資家が多く、SK Hynix株式に対する強いロング需要が確認できます。


Hyperliquidにはファンディングレートと呼ばれる金利の授受システムがあり、信用ポジションを築く際に借り手から貸し手へ金利を支払う仕組みと似た形で、ロングとショートの需給バランスを調整しています。

Hyperliquidはオラクル価格を基準にファンディングレートを算出し、ロング側が金利を負担する前提の中立水準を置いています。BTCなど本体のパーペチュアル市場では24時間あたり0.030%ですが、SKHynixを含むtrade.xyz運営のHIP-3市場ではその半分の0.015%で、そこからの乖離度でロング優勢かショート優勢かを判断します。中立金利を上回る場合は原資産価格に対してHyperliquid上の価格が上振れており、ロング需要が強いことを示します。(中立金利を下回る場合はショート優勢)


特定の市場がロングかショートの片方に対して強い需要が発生することは珍しくなく、その時々の地政学ニュースやマーケットで注目を集めているアセットに対して需要が傾きやすい構造があります。

出来高の推移

Hyperliquid全体で見ても、取引される資産クラスの構成比はその都度大きく変化しています。2025年のHIP-3リリースを契機に、株式インデックス、コモディティ(主に貴金属と原油)、個別株の取引が占める割合が増加しており、直近のデータでは株式の出来高が暗号資産を上回る場面も出てきました。

Hyperliquid上でRWA取引を支える仕組み

HIP-3

Hyperliquidには「HIP-3」と呼ばれる規格があります。HIP-3以前では、Hyperliquid運営が個々の市場を確認しながら上場の可否を判断する仕組みで、上場も暗号資産に限定されていました。

HIP-3最大の特徴は、一定条件を満たせば中央集権的な許可を経ずに、Hyperliquidチェーン上で誰でも永久先物市場(Perpetual Futures)を作れる点にあります。

具体的な要件は以下の通りです。

  • 最低50万HYPE(執筆時点で数千万ドル規模)をステークし、デプロイヤーとして登録する
  • 要件を満たしたデプロイヤーは最初の3市場を無料でローンチでき、それ以降はオークション形式でティッカーの入札を行う
  • ビルダー(デプロイヤー)ごとに独自の手数料体系を持ち、デプロイした側に一部が還元される
  • デプロイヤー側の過失で市場価格に大きな乖離が生じた場合、バリデータの投票によってステークしたHYPEがスラッシング(没収)される

各ビルダーのデプロイメントは、独自のマージン・オーダーブック・設定を持つ「perp DEX」として機能しますが、マッチング・マージン・清算・ファンディング・決済といったコア実行部分はHyperliquid本体が担います。

HIP-3の実装以降、多くの出来高が生まれ、Hyperliquid全体の成長に大きく貢献しています。

Trade.xyz

HIP-3を語るうえで欠かせないプレイヤーが「Trade.xyz」です。Trade.xyzは、HIP-3を使ってHyperliquid上に構築された、株式・コモディティ・FXなど伝統資産のパーペチュアル取引に特化したDEXとなります。Trade.xyzは2024年に設立され、2025年10月のHIP-3ローンチと同時にネットワーク初のデプロイメントとしてスタートし、現在まで最初かつ最大のデプロイヤーの地位を維持しています。

こちらのプロトコルはNASDAQ100指数をトークン化した「XYZ100」や、AMZN・AAPL・TSLAなどの個別株を24時間365日取引できる点が特徴です。従来は平日の取引時間内でしか売買できなかった株式市場に対し、週末や夜間でも取引可能にしました。執筆現在では株式・コモディティ・FX・プレIPO銘柄まで、複数の資産クラスにわたって24時間アクセスできる市場を提供しています。

また、2026年3月にはS&P500の公式ライセンスを取得し、同指数の機関投資家グレードの24時間パーペチュアル市場を初めて実現しました。この点は、Trade.xyzが単なる暗号資産DEXではなく、伝統金融のインデックス提供者から正式にライセンスを受けたインフラとして認知され始めていることを示しています。

HyperliquidはRWA取引にどう活用されているか

個人投資家への幅広い投資機会の提供

Hyperliquid上では、煩雑な登録やKYCなどの手続きを必要とせず、様々なアセットクラスの取引を行うことができます。

例えば、特定の国(韓国以外)の投資家がSK Hynixへのエクスポ―ジャーを得たいと考えた場合、方法はかなり限られます。

  • 現物を買い入れるためには海外取引所を経由する必要がある
  • 間接的にエクスポージャーを得たい場合でも、SK Hynixを組み入れた投資信託やETFを買う必要がある
  • レバレッジが自由にかけられない(Hyperliquid上では10倍までかけられる)
  • 簡単には空売りができない

こうした制約の中でユーザーが従来アクセスできなかった市場へ対して手軽にアクセスできる点がHyperliquidの特徴となります。

Hyperliquidでは、証拠金が入ったウォレットさえあれば、比較的自由にレバレッジをかけることができ、空売りを行うことも可能です。本来は信用取引口座を開かないとできないような取引が、ウォレットさえあればものの数分でできてしまう利便性がHyperliquidにはあります。

週末・時間外のギャップヘッジ

伝統的な株式・コモディティ市場では、市場が閉まっている土日の間、現物保有者は取引を行えません。たとえ地政学リスクを伴う重大なニュースが出て市場が混乱に陥る展開になったとしても、月曜の市場オープンまでポジションを解消できず、大きな含み損を抱えるリスクが存在します。

Hyperliquidを活用すれば、こうした現物保有者がパーペチュアル先物でショートポジションを構築し、週末のニュースリスクをヘッジする動きが可能になります。市場閉場中に大きなニュースを観測した時点でショートポジションを組むことで、月曜オープン時の価格ギャップを相殺し、損失幅を限定するポジション構築が実現します。

例えば2026年8月時点では、トランプ大統領は関税や戦争などの政治判断が市場に大きな下押しを与えることを非常に嫌う傾向があり、重要な発表を金曜日の米国市場クローズ後に行うことが多いとされています。暗号資産特有の24時間取引を活かし、現物市場が開く前にポートフォリオのリスクを軽減できる点は、Hyperliquidの明確な強みだと考えています。

複数資産クラスをまたぐ合成ポジションの構築

伝統的金融では、株式・コモディティ・株価指数のポジションを構築するには、それぞれ異なる証券会社や商品先物取扱業者、口座を経由しなければなりません。機関投資家のような大口であれば自社システムで一元管理できますが、個人投資家にとってはハードルが高いのが実情です。

Hyperliquid上では、USDC建て証拠金に加え、HYPEやBTCを担保資産として活用することで、株式・コモディティ・指数のポジションを横断的に構築できます。

例えば、リスク資産全体には懐疑的だが暗号資産セクターには楽観的、というケースを考えます。この場合、S&P500連動のトークン化パーペチュアルなど複数のリスク資産にショートポジションを形成しつつ、BTCなどの暗号資産セクターにのみロングポジションを組むといった取引が可能です。

このポジション形成を伝統的金融で行おうとすると、ショートとロングが別のアセットであるため、別口座で管理することになり、実質的に2倍の証拠金を預けてポジションを維持する必要が生じます。一方Hyperliquidでは、単一の証拠金基盤で両建てポジションを損益で管理できるため、資本効率高くこの種の合成ポジションを実行可能です。

APIを活用した自由度の高い取引環境

伝統的金融で複数資産にまたがる条件付きの複合戦略を組もうとすると、いくつもの制約に直面します。

  • 株式・コモディティ・株価指数それぞれで取扱業者が異なり、API仕様も統一されていない
  • 業者ごとに対応している注文方法が異なる
  • 複数系統の約定・ポジションを、人力または複数の管理システムで統合しなければならない

こうした制約により、個人投資家が複数資産をまたぐ複合戦略を自動化しようとすると、システム構築のコストと手間が現実的なハードルとなってしまいます。

Hyperliquidではこの制約が構造的に解消され、現物・パーペチュアル・RWA銘柄まで、すべて単一のAPI仕様で横断的に注文できるため、複数資産・複数条件を組み合わせた執行ロジックを、ひとつのコードベースで完結して構築できます。

指値・成行・ストップに加えTWAPやスケールオーダーといった多様な注文方法にも標準対応しており、伝統的なブローカレッジでは業者ごとに対応状況が分かれていた注文の自由度を、単一プラットフォーム上でまとめて享受できます。

さらに、HyperEVMはHyperCoreの状態を外部オラクルを介さずに直接参照できる設計になっており、条件付き執行のトリガー自体もオンチェーンで完結させることが可能です。これにより、複合戦略を複数システムの連携ではなく、単一APIによる一貫したロジックとして実装できる点が、Hyperliquidの構造的な優位性だと言えます。

Hyperliquid特有の課題

流動性リスク

Hyperliquid上のRWA取引は急成長している一方で、現物市場と比較するとまだ流動性が薄く、約定リスクが存在しています。実際、SKHynixのようなメモリー半導体銘柄では、現物市場の異常な約定をきっかけに価格が大きく飛ぶ場面(フラッシュクラッシュ)も観測されました。板が薄い状態で成行に近い大きな注文や清算が入ると、想定よりも大きな価格変動を起こす可能性があります。

ただし、プロトコル全体で見れば出来高が急速に伸びており、スプレッドも縮小傾向にあります。裁定取引を行う参加者が増えることで価格効率性が改善しつつあり、この流動性リスクは時間の経過とともに緩和されていく可能性が高いと考えられます。

規制リスク

Hyperliquidの法的な立ち位置は米国をはじめ各国でまだ確定しておらず、規制動向次第では投資家のアクセスが制限されるリスクがあります。

  • CLARITY法案(米国) — SECとCFTCの管轄権を整理し、デジタル資産に包括的な規制フレームワークを設ける法案です。2026年5月に上院銀行委員会を通過しましたが、8月時点でも本会議採決の日程は確定しておらず、2026年中の成立は不透明です。Hyperliquidの米国での位置づけは、この法案の着地点に左右されます。
  • 金商法への移管(日本) — 2026年7月15日に改正法が成立し、暗号資産規制を資金決済法から金融商品取引法へ移すことが決まりました。ただし施行は公布日から1年以内とされており、実際の制度移行は2027年中の見込みです。現時点では暗号資産はなお資金決済法の枠組みで規制されています。国内投資家保護は今後進む一方、Hyperliquidのような海外の分散型プラットフォームがどう扱われるかは細則次第です。

Hyperliquid側ではこうした規制動向へ対して対応するため、2026年2月にワシントンD.C.でHyperliquid Policy Center(HPC)を設立し、CFTCへの働きかけを行っています。2026年7月にはPhantomと共同で意見書を提出し、オンチェーン開発と規制対象の金融行為の区別を求めています。

暗号資産特有の自由を最重要視する思想と各国の規制がどのようなバランスに着地するかによって、Hyperliquidの取引の自由度、ひいてはユーザーへのアクセス開放の時期も大きく変わることが考えられます。

オラクル・価格操作リスク

Hyperliquid上のRWA市場は、デプロイヤー依存の価格フィード設計であるため、操作リスクが存在しています。HIP-3では各市場のデプロイヤーが価格フィードの設計に関与できる仕組みになっており、その設計の質によって市場ごとの信頼性が左右される構造になっています。

これに対する抑止力として、清算価格は単一の価格フィードではなく複数ソースを組み合わせたマーク価格で算出されており、単純な価格操作では清算を誘発できないようになっています。また日中に参照価格が50%動いた場合はバリデーターによるレビューが発動し、悪質な操作が確認されればデプロイヤーのステークHYPEがスラッシングされる仕組みも備わっています。

まとめ

Hyperliquidは、既存の伝統的金融機関や証券取引所がカバーしきれない需要の受け皿として機能し始めています。半導体株式、貴金属や原油など、その時々で注目を集める資産に投資家の需要が集中するたびに、Hyperliquidは新規ユーザーを獲得し、流動性の薄さといった課題を乗り越えながら成長してきました。

ただし、既存の証券取引所に置き換わることや同等の地位を築くかどうかという点では、規制整備の行方次第だと思われます。特にCLARITY法案の成否とHyperliquidの規制動向次第で、RWAの成長速度は大きく変わってくると筆者は考えます。