ステーブルコイン決済網が法人送金の中継銀行を外し始めた CPNは175金融機関・年換算3.5兆円
ステーブルコイン決済ネットワークとは、銀行や決済事業者を審査のうえ参加者として登録し、支払指示と本人確認情報をネットワーク上で交換しながら、資金の移転はUSDCなどのステーブルコインの1回の送付で完了させる法人間送金の仕組みです。中継銀行を介さず24時間365日動き、ブロックチェーン上の送付は数秒から数分で終わります。
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- キリフダ株式会社
この記事の要点
- Circle Payments Network(CPN)の年率換算取扱高は約3.5兆円(230億米ドル、2026年7月31日時点)で、2025年11月の約5,200億円から9カ月で約7倍になった。参加金融機関は175社
- 既存の国際送金はSwiftの電文とコルレス銀行の帳簿の二層で動き、大口送金でも1時間以内に着金するのは54.6%(2025年)。決済網では帳簿が1つになり照合が消える
- 実需のステーブルコイン決済は2025年に約60兆円(3,900億米ドル)、うち法人間が約35兆円(2,260億米ドル、前年比733%増)。世界の法人間国際送金約5,350兆円の約150分の1
- ネットワーク運営者は資金を預からず、両端の金融機関が顧客契約・法定通貨との交換・免許を担う。収益は受取側の払出手数料と運営者の従量手数料に分かれる
- 日本では3メガバンクが共同発行するステーブルコインで三菱商事の海外拠点間決済を検証し、2026年度中の実取引開始を目標にしている
ステーブルコイン決済ネットワークとは、金融機関をつなぎ法人間送金を1回の送付で完了させる仕組み
海外の取引先への支払いに数営業日と中継銀行ごとの手数料をかける——法人の国際送金のこの前提が、金融機関の側から崩れ始めています。米Circle(サークル)が運営するステーブルコイン決済ネットワーク「Circle Payments Network(CPN)」は、2025年5月の稼働開始[6]から約1年で175の金融機関を参加者として登録し、年率換算の取扱高は約3.5兆円(230億米ドル、2026年7月31日時点)に達しました[1][2]。参加金融機関の数は2025年11月の29社から6倍に増えています[3]。
ステーブルコイン決済ネットワーク(Stablecoin Payments Network)とは、銀行や決済事業者を審査のうえ参加者として登録し、支払指示と本人確認情報をネットワーク上で交換しながら、資金の移転はUSDCなどのステーブルコインの1回の送付で完了させる法人間送金の仕組みです。海外では「ペイメントネットワーク(Payments Network)」や「ステーブルコイン・オーケストレーション」と呼ばれています。本稿では「決済網」と略します。ステーブルコインそのものの定義と規模は別稿「ステーブルコインの月間決済額が米ACHに並んだ」で解説しています。
既存の国際送金と最も違うのは「指示」と「資金」の分かれ方です。コルレス送金では、支払指示はSwift(国際銀行間通信協会)の電文として銀行から銀行へ順に届き、資金は各銀行が相手行に置くノストロ口座(コルレス口座)の残高を順に振り替えて移ります。銀行の数だけ帳簿があり、段ごとに照合が発生します。決済ネットワークでは、支払指示は運営者が定めた規格で送金側から受取側の金融機関へ直接届き、資金は公開ブロックチェーン上の1回の送付で移ります(図1)。帳簿は1つで、中継する銀行は存在しません。
ステーブルコインを法人間送金に使う仕組みは、1つの型に収まりません。金融機関同士をつなぐネットワーク型(CPN)、決済専用のブロックチェーンを敷く基盤型(StripeとParadigmが設立したTempo)、既存の決済網がステーブルコインを決済手段として受け入れる組み込み型(Visaのステーブルコイン決済)の3類型があります(表1)。本稿は法人間取引で最も進んでいるネットワーク型を中心に、他の2類型を比較対象として扱います。
送金側と受取側の金融機関が両端を担い、運営者は名簿と規格を提供する
CPNの1件の送金は3つの段階で進みます。第一に、送金側金融機関(OFI: Originating Financial Institution)が支払企業の本人確認を行い、受け取った自国通貨をUSDCに交換します。第二に、OFIはネットワークの規格に沿った支払指示と本人確認情報を受取側金融機関(BFI: Beneficiary Financial Institution)へ暗号化して送り、USDCを公開ブロックチェーン上でBFIのウォレットへ送付します。第三に、BFIがUSDCを現地通貨に交換し、受取企業の口座へ払い出します[7]。
運営者であるCircleは資金を預かりません。Circleの参加者向け解説は、運営会社Circle Technology Servicesについて「顧客に代わって資金を保有せず口座も管理しない」と明記しています[7]。運営者が提供するのは、法人確認(KYB)とトラベルルール対応を審査した参加者の名簿、支払指示と本人確認情報を添付する電文の規格、そしてネットワークの規則です。決済に使う通貨はUSDCとユーロ建てのEURCで、Ethereum・Polygon・Solanaの3つのブロックチェーンに対応しています(2025年11月時点)[7]。
手数料は3つの層に分かれます。受取側金融機関が課す現地通貨の払出手数料と為替スプレッド、運営者が課す国グループ別に段階を設けた従量(ベーシスポイント)手数料、そしてブロックチェーンの送付手数料です[7]。この従量手数料は2026年後半から課金を始める計画で、それまでは参加者の獲得を優先してきました[2]。
想定する用途は稼働開始時点から法人取引が中心です。Circleは2025年5月のメインネット稼働にあたり、用途として「法人間のサプライヤー支払い」「国際送金」「トレジャリーとグローバルな資金集約」「サブスクリプションを含む反復的な企業支払い」「給与と大量支払い」を挙げています[6]。
実需の法人間ステーブルコイン決済は年約35兆円で、世界の法人間国際送金の約150分の1
決済網の規模を、法人間の国際送金という同じ物差しで測ります(表2、表3)。CPNの年率換算取扱高は約2.3兆円(147億米ドル、2026年6月末時点、直近30日実績の年率換算)で前四半期比76%増、参加金融機関は175社で同29%増でした[1]。決算説明会では、7月31日時点で約3.5兆円(230億米ドル)、58カ国超に広がったと説明されています[2]。
| 指標 | 数値 | 出所 |
|---|---|---|
| CPN 年率換算取扱高 | 約2.3兆円(147億米ドル、2026年6月末時点、前四半期比76%増) | [1] |
| CPN 年率換算取扱高(直近) | 約3.5兆円(230億米ドル、2026年7月31日時点) | [2] |
| CPN 参加金融機関数 | 175社(2026年6月末時点、前四半期比29%増)。2025年11月7日時点は29社 | [1][3] |
| CPN 対応国 | 58カ国超(2026年7月時点)。2025年11月時点は8カ国 | [2][3] |
| Tazapay 年率換算取扱高 | 約3.8兆円(250億米ドル、2026年7月31日時点)。約60%がステーブルコインを含む取引 | [9] |
| 実需のステーブルコイン決済額(全用途) | 約60兆円(3,900億米ドル、2025年)。世界の決済額の約0.02% | [10] |
| うち法人間(B2B) | 約35兆円(2,260億米ドル、2025年、全体の約60%、前年比733%増) | [10] |
| Visa ステーブルコイン決済額 | 年率換算 約3.1兆円(200億米ドル)超、前年比15倍超(2026年9月8日時点) | [24] |
規模の面では、ステーブルコイン決済網は既存の国際送金市場に対して率直に言って小さい段階にあります。実需の法人間ステーブルコイン決済約35兆円(2,260億米ドル、2025年)[10]は、世界の法人間国際送金約5,350兆円(34.8兆米ドル、2025年)[12]の約150分の1、CPN単体では約1,500分の1です。オンチェーンの総取引高は国際決済銀行(BIS)の推計で年約4,300兆円(28兆米ドル、2025年)に達しますが[27]、McKinseyはそのうち実需の決済は約60兆円(3,900億米ドル)にすぎないと整理しています[10]。総取引高を決済の規模と読み替えないことが、この分野を評価する前提です。
小さいながら、動いている方向と主体は数字で読めます。CPNの年率換算取扱高は2025年11月7日の約5,200億円(34億米ドル)から2026年7月31日の約3.5兆円(230億米ドル)へ9カ月で約7倍になり、参加金融機関は29社から175社へ増えました[1][2][3][4][5]。取扱高を増やしているのは、送金側・受取側として参加する銀行と決済事業者です。現地通貨の払出経路は2026年2月にインド・シンガポール・フィリピン・アラブ首長国連邦・米国・EUへ広がり、各国の決済事業者が受取側金融機関として加わりました[8]。Circleが2026年9月8日に買収を発表したシンガポールのTazapay(タザペイ)は決済事業者と金融機関向けの法人間国際送金基盤で、年率換算取扱高約3.8兆円(250億米ドル、2026年7月31日時点)の約60%がすでにステーブルコインを含む取引になっています[9]。
用途の構成も法人へ寄っています。Artemisが33社の決済事業者を調査した報告では、法人間送金の月間取扱高は2023年初の1億米ドル未満から2025年半ばに約9,200億円(60億米ドル)超へ増え、2025年8月時点の年率換算で約12兆円(760億米ドル)と、個人間送金(190億米ドル)やカード決済(180億米ドル)を上回る最大の用途になりました[11]。McKinseyの整理でも法人間が実需決済の約60%を占め、前年比733%増と最も速く伸びています[10]。個人間送金が先行した2023年から、法人間が主用途へ入れ替わった構図です。
中継銀行ごとの手数料と照合が消え、着金の待ち時間が数営業日から数分になる
コスト構造の違いは仲介段階の数に由来します。法人が銀行窓口から外国送金を行う場合、三菱UFJ銀行の料率表では送金手数料7,000円、円為替取扱手数料が送金額の0.050%(最低2,500円)、支払銀行手数料3,000円がかかり、別途「支払銀行・経由銀行の手数料がかかることがあります」と注記されています(2026年3月2日現在)[15]。国際決済銀行(BIS)がSwift gpiのデータを分析した報告では、送金銀行と受取銀行の間には平均で1行超の中継銀行が入り、処理時間の中央値は2時間未満、最速の経路は5分未満、最も遅い経路は2日超でした(2022年2月時点)[14]。
| 比較軸 | コルレス送金(既存) | ステーブルコイン決済網 |
|---|---|---|
| 銀行手数料(円建て、法人窓口) | 送金手数料7,000円+円為替取扱手数料0.050%(最低2,500円)+支払銀行手数料3,000円、経由銀行手数料は別途(三菱UFJ銀行、2026年3月2日現在)[15] | ブロックチェーンの送付手数料 1件約1.5円〜150円(0.01〜1.00米ドル)[16]。これに受取側の払出手数料・為替スプレッド、運営者の従量手数料が加わる[7] |
| 総コスト(為替コスト含む) | 中小企業の法人間送金(2万米ドル相当)で平均1.6%(2025年3月時点、世界加重平均)[13] | 公表統計なし。受取側の為替スプレッドと払出手数料が大半を占める構造[7] |
| 中継する金融機関 | 平均1行超のコルレス銀行[14] | なし。送金側と受取側の金融機関のみ[7] |
| 着金までの時間(大口) | 1時間以内 54.6%、1営業日以内 93.2%(2025年)[13] | ブロックチェーン上の送付は数秒〜数分。受取側の払出は各国の国内決済網に依存[7] |
| 稼働時間 | 各国の銀行営業日・営業時間 | 24時間365日[6] |
| 照合事務 | 各行の帳簿ごとに必要 | 単一の台帳を参照するため発生しない |
大口の国際送金が遅れる場所は、最後の1行です。金融安定理事会(FSB)がSwiftのデータで集計した2025年の進捗報告によると、大口の国際送金で1時間以内に着金した比率は54.6%ですが、送金銀行から受取銀行に電文が届くまで(インフライト区間)に限れば88.5%が1時間以内でした。受取銀行が電文を受けてから顧客口座に入金するまで(受取行区間)で1時間以内に収まったのは61.7%です[13]。中小企業の法人間送金(2万米ドル相当)では、平均総コストが1.6%(2025年3月時点)で、1営業日以内に着金する送金は45%未満にとどまります[13]。
決済網のコスト優位は、算定根拠を示した推定として次のように整理できます。約300万円(2万米ドル相当)の送金で、銀行手数料の固定部分は7,000円+2,500円+3,000円=12,500円、送金額の約0.42%です(三菱UFJ銀行の料率表から算出、為替スプレッドと経由銀行手数料を含まない推定)[15]。FSBの平均総コスト1.6%を当てれば約4.9万円になります[13]。ブロックチェーン上の送付原価は同じ金額でも約1.5円〜150円です[16]。差の源泉は、中継銀行の手数料と各行の照合事務が構造上発生しないことにあります。
契約と資金は両端の金融機関に残り、ネットワーク運営者は電文とルールの提供者になる
誰が顧客と契約し、誰が資金を預かり、誰が損失を負い、誰が収益を得るかで両者を対比します(図3)。コルレス送金では、支払企業は自社の取引銀行(仕向銀行)と契約し、資金は仕向銀行・コルレス銀行・被仕向銀行がそれぞれの帳簿で預かります。中継銀行は相手行に置いたノストロ口座の残高、つまり自らのバランスシートで送金を支えており、相手行の信用リスクも負います。収益は送金手数料、中継手数料、為替差益として銀行ごとに積み上がります。
決済網では、契約と資金の保管は両端の金融機関に残ります。送金側金融機関が支払企業と契約して本人確認を行い、受取側金融機関が受取企業への払出と現地の免許を担います。運営者は資金を預からず、参加者の審査、電文の規格、ネットワークの規則を提供する立場です[7]。金融業界の6層でいえば、運営者は市場・取引インフラの層に位置し、バランスシートを提供する層には入りません。中継銀行が担っていた「相手行に資金を積み置く」機能は、送金側金融機関が保有するUSDCの在庫と受取側金融機関の現地通貨の手元流動性へ移ります。仲介段階は消えますが、流動性を用意する負担が消えるわけではありません。
リスクの置き換わりも明確です。コルレス送金で送金銀行が負うのは中継銀行の信用リスクでした。決済網では、送金に使うUSDCの価値を裏付ける発行体の準備資産に対する信用リスクに置き換わります。USDCの流通残高は約11.3兆円(733億米ドル、2026年6月末時点)で、発行体Circleは上場企業として四半期ごとに準備資産を開示しています[1]。ブロックチェーンや契約コードの障害は参加者側のリスクとして残ります。
収益の所在は3者に分かれます。受取側金融機関は払出手数料と為替スプレッドを、運営者は国グループ別の従量手数料を、発行体は準備資産の運用益を得ます[7]。Circleは運営者と発行体を兼ねるため、決済網の拡大が準備資産の運用益と手数料収益の両方につながる構造です。運営者の課金は2026年後半に始まる計画で、それまでの取扱高は課金前の数字です[2]。
使い道はグループ内資金移動、決済事業者間の精算、証拠金の差し入れに広がっている
実際の利用は、事業会社の資金移動、決済事業者どうしの精算、金融機関間の担保移転の3つに整理できます。
- 事業会社のトレジャリー:JCBはCircleのステーブルコイン基盤と自社の加盟店網を組み合わせ、当初はUSDCによる国境をまたぐトレジャリー送金と店頭でのステーブルコイン決済に取り組んでいます(2026年8月時点)[1]。Stripeは2025年5月20日に「Stablecoin Financial Accounts」を101カ国の事業者向けに開放し、USDCの残高を保有して取引先への支払いに使えるようにしました[26]。銀行預金をトークン化してグループ内の資金移動を24時間化する動きは別稿「「トークン化預金」が企業の資金管理を24時間化」で扱っています
- 決済事業者どうしの精算:Tazapayは決済事業者と金融機関向けの法人間国際送金基盤として、100超の市場に現地通貨の払出経路を持ち、年率換算取扱高約3.8兆円(250億米ドル、2026年7月31日時点)の約60%がステーブルコインを含む取引です[9]。決済事業者Niumは190カ国超の払出網にUSDCの決済を接続しました[1]。Visaは自社の決済網の精算にステーブルコインを使う仕組みを広げ、ステーブルコインによる年率換算の決済額は約3.1兆円(200億米ドル)超、前年比15倍超になりました(2026年9月8日発表)[24]
- 金融機関間の担保移転:英Marexは規制下のデリバティブ清算で機関投資家がUSDCを当初証拠金として差し入れる初の取引を実行しました(2026年8月時点)[1]。銀行間の大口決済における同種の動きは別稿「銀行間の大口決済が24時間動き出す」で扱っています
日本企業では三菱商事が先頭にいます。三菱UFJ銀行・みずほ銀行・三井住友銀行・三菱UFJ信託銀行・Progmatの5社は2025年11月7日、銀行を共同委託者、信託銀行を受託者とする信託契約に基づくステーブルコイン(資金決済法上の特定信託受益権)を発行し、三菱商事の日本拠点と海外拠点の間のクロスボーダー決済に使えるかを検証する実証実験が、金融庁の「FinTech実証実験ハブ」の支援案件に採択されたと発表しました[22]。3行は2026年6月10日、このステーブルコインを用いた実取引を2026年度中に開始することを目標に掲げ、運営・ガバナンスを検討する協議会の設置に基本合意しています[23]。
決済専用の基盤も稼働しました。StripeとParadigmが設立したTempo(テンポ)は2026年3月18日にメインネットを稼働させ、手数料を米ドル建てステーブルコインで支払い、通常の送付は1件1セント未満としています。設計にはVisa、Deutsche Bank、Mastercard、Shopify、Nubank、Revolutが参加し、用途として国際送金とグローバルな払出を掲げています[25]。ネットワーク型が既存の金融機関をつなぐのに対し、基盤型は送付の土台そのものを決済向けに作り直す方向です。
日本の法人間決済は全銀システムとでんさいで電子化が進み、効果はクロスボーダーと時間外に集中する
日本の国内法人間決済は、すでに即時・電子化が進んだインフラの上にあります。全国銀行データ通信システム(全銀システム)は1営業日平均約843万件・約17.5兆円の為替取引を処理し(2025年12月現在、年間約20.4億件・約4,264兆円)[18]、平日8時30分〜15時30分のコアタイムに加え、夜間・土日祝日も多くの金融機関間でリアルタイムに入金されます[19]。企業間の振込電文をISO20022のXML電文に移し、商流情報を添付できる全銀EDIシステム(ZEDI)も稼働しています[19]。
| 仕組み | 規模・状況 | 出所 |
|---|---|---|
| 全銀システム(内国為替) | 1営業日平均約843万件・約17.5兆円(2025年12月現在)。1,000超の金融機関が加盟 | [18][19] |
| でんさい(電子記録債権) | 発生記録請求 約1,001万件・約50.1兆円(2025年度)。利用者登録数 約57.0万(2026年3月末) | [20] |
| 手形・小切手 | 電子交換所の交換枚数 1,967万枚(2024年)。2027年度初から交換を廃止 | [21] |
| 3メガバンク共同ステーブルコイン | 三菱商事の海外拠点間決済で検証(2025年11月採択)。2026年度中の実取引開始が目標 | [22][23] |
| JPYC(資金移動業者型) | 流通残高 約20.8億円(2026年9月7日時点、4チェーン合計、キリフダ調べ) | [28] |
法人間の支払手段そのものも電子化の途上にあります。電子記録債権「でんさい」の発生記録請求は2025年度に約1,001万件・約50.1兆円に達し、利用者登録数は約57.0万(2026年3月末時点)です[20]。全国銀行協会は2027年度初から電子交換所における手形・小切手の交換を廃止する方針で、2024年時点の年間交換枚数は1,967万枚でした[21]。国内の法人間決済は、銀行振込とでんさいへの集約が制度として進んでいる段階です。
この前提に立つと、日本でステーブルコイン決済網が効くのは国内振込の置き換えではなく、クロスボーダーと営業時間外、そして条件付きの決済です。三菱商事の実証が対象にしているのも日本拠点と海外拠点の間の決済です[22]。日本円建てステーブルコインの規模はまだ小さく、資金移動業者型のJPYCの流通残高はキリフダの集計で約20.8億円(2026年9月7日時点、Ethereum・Polygon・Avalanche・Kaiaの4チェーン合計)です[28]。国内の小売決済での位置づけは別稿「ステーブルコイン決済は日本でも広がり始めた」で扱っています。
リスクは発行体への集中、最後の1行、そして規制の評価に残る
第一に、信用の集中です。ネットワーク型の決済網は特定の発行体のステーブルコインで決済するため、中継銀行に分散していた信用リスクが発行体の準備資産に集まります。国際決済銀行(BIS)は2026年6月23日の年次経済報告で、ステーブルコインは通貨の「単一性」「弾力性」「健全性」の3条件を現時点で満たさないと評価し、その理由として、中央銀行のバランスシート上で決済されないこと、事前に資金を払い込む発行モデルで供給の弾力性が制約されること、公開ブロックチェーン上の匿名性が本人確認とマネーロンダリング対策を弱めることを挙げています[27]。同報告はステーブルコインの時価総額を約49兆円(3,200億米ドル、2026年5月末時点)、年間取引高を約4,300兆円(28兆米ドル、2025年)と推計し、法定通貨建ての99.4%が米ドル連動である点から、新興国での「ステーブルコインによるドル化」と資本移動の不安定化も指摘しています[27]。
第二に、最後の1行の問題です。ブロックチェーン上の送付が数秒で終わっても、受取側金融機関から受取企業への払出は各国の国内決済網と営業時間に依存します[7]。大口の銀行送金でも、遅延の大半は受取銀行の区間で起きており、電文が受取銀行に届くまでは88.5%が1時間以内なのに対し、顧客口座への入金まで含めると54.6%に下がります(2025年)[13]。決済網はこの区間を受取側金融機関に委ねる設計であり、国内決済網の即時性が低い国では優位が縮みます。
第三に、コストの透明性です。運営者の従量手数料は国グループ別の段階制で、受取側の為替スプレッドと払出手数料は参加者ごとに異なります[7]。ブロックチェーンの原価が1件約1.5円〜150円でも[16]、支払企業が負担する総額を示す公表統計はまだありません。銀行送金については、FSBが総コストと速度の透明性を毎年の指標として追っており[13]、決済網が同じ粒度の開示に至るかは今後の論点です。
第四に、日本の制度との接続です。米ドル建てステーブルコインを日本の法人が送金に使うには、改正資金決済法上の電子決済手段として登録業者を通す必要があり、円建てでは銀行・信託会社・資金移動業者の3ルートに発行が限定されています。3メガバンクの共同ステーブルコインは信託型でこの枠内に収まる設計ですが、実取引の開始は2026年度中の目標段階です[23]。制度の詳細は別稿「ステーブルコインの月間決済額が米ACHに並んだ」の日本の節で解説しています。
法人間送金の構造は、規模より先に変わり始めた
ステーブルコイン決済ネットワークが既存金融に迫る度合いは、規模では小さく、構造では明確です。実需の法人間ステーブルコイン決済約35兆円(2,260億米ドル、2025年)は世界の法人間国際送金の約150分の1[10][12]、CPNは年率換算約3.5兆円(230億米ドル、2026年7月31日時点)で約1,500分の1です[2][12]。一方で、CPNの取扱高は9カ月で約7倍、参加金融機関は29社から175社へ増え[1][2][3]、増えている主体は銀行と決済事業者です。帳簿が1つになり中継銀行と照合事務が消える構造、運営者が資金を預からず両端の金融機関が契約と免許を担う分業は、既存の国際送金が原理的に持てなかった商品性としてすでに実需を得ています。日本でも3メガバンクが2026年度中の実取引開始を目標に掲げました[23]。法人間送金は、規模より先に構造が入れ替わり始めています。
よくある質問
- ステーブルコイン決済ネットワーク(Payment Network)とは何ですか
- 銀行や決済事業者を審査のうえ参加者として登録し、支払指示と本人確認情報をネットワーク上で交換しながら、資金の移転はUSDCなどのステーブルコインの1回の送付で完了させる法人間送金の仕組みです。代表例はCircle Payments Network(CPN)で、参加金融機関は175社、年率換算取扱高は約3.5兆円(230億米ドル、2026年7月31日時点)です。
- ステーブルコイン決済ネットワークの仕組みはどうなっていますか
- 送金側金融機関(OFI)が支払企業の本人確認を行い自国通貨をUSDCに交換し、ネットワークの規格に沿った支払指示と本人確認情報を受取側金融機関(BFI)へ送るとともに、USDCを公開ブロックチェーン上で送付します。受取側金融機関がUSDCを現地通貨に交換して受取企業へ払い出します。運営者は参加者名簿・電文の規格・規則を提供し、資金は預かりません。
- SWIFTやコルレス送金と何が違いますか
- 既存の国際送金では、支払指示はSwiftの電文として銀行から銀行へ順に届き、資金は各銀行が相手行に置くノストロ口座の残高を順に振り替えて移るため、帳簿が銀行の数だけあり段ごとに照合が発生します。決済網では支払指示が送金側から受取側へ直接届き、資金は単一の台帳上の1回の送付で移ります。中継銀行がなく、24時間365日稼働します。
- 法人間のステーブルコイン決済の規模はどのくらいですか
- McKinseyがArtemisのデータで推計した実需のステーブルコイン決済額は約60兆円(3,900億米ドル、2025年)で、うち法人間が約35兆円(2,260億米ドル、前年比733%増)です。世界の法人間国際送金約5,350兆円(34.8兆米ドル、2025年)の約150分の1にあたります。CPN単体の年率換算取扱高は約3.5兆円(230億米ドル、2026年7月31日時点)です。
- コストはどのくらい下がりますか
- 法人の外国送金では送金手数料7,000円、円為替取扱手数料0.050%(最低2,500円)、支払銀行手数料3,000円に経由銀行手数料が別途かかり(三菱UFJ銀行、2026年3月2日現在)、中小企業の法人間送金では為替コストを含む総コストが平均1.6%(2025年3月時点)です。ブロックチェーン上の送付原価は1件約1.5円〜150円ですが、受取側の払出手数料・為替スプレッドと運営者の従量手数料が加わり、支払企業が負担する総額の公表統計はまだありません。
- 日本ではどのような動きがありますか
- 三菱UFJ銀行・みずほ銀行・三井住友銀行は信託型のステーブルコインを共同発行し、三菱商事の日本拠点と海外拠点の間のクロスボーダー決済で検証する実証実験を2025年11月に金融庁のFinTech実証実験ハブに採択され、2026年度中の実取引開始を目標にしています。国内の法人間決済は全銀システム(1営業日約843万件・約17.5兆円)とでんさい(2025年度約1,001万件・約50.1兆円)で電子化が進んでおり、効果はクロスボーダーと営業時間外に集中します。
- ステーブルコイン決済ネットワークのリスクは何ですか
- 中継銀行に分散していた信用リスクが特定の発行体の準備資産に集まること、受取側金融機関から受取企業への払出が各国の国内決済網と営業時間に依存すること、運営者の手数料と受取側の為替スプレッドを合わせた総コストの公表統計がないことが主なリスクです。国際決済銀行(BIS)は2026年6月の年次経済報告で、ステーブルコインは通貨の単一性・弾力性・健全性の3条件を現時点で満たさないと評価しています。
用語集
- ステーブルコイン決済ネットワーク(Stablecoin Payments Network)
- 銀行・決済事業者を参加者として登録し、支払指示はネットワーク上で交換し、資金はステーブルコインの1回の送付で移す法人間送金の仕組み。
- Circle Payments Network(CPN)
- USDC発行体Circleが2025年5月に稼働させた決済ネットワーク。参加金融機関175社、年率換算取扱高約3.5兆円(2026年7月31日時点)。
- OFI・BFI
- 送金側金融機関(Originating Financial Institution)と受取側金融機関(Beneficiary Financial Institution)。顧客との契約、本人確認、法定通貨との交換を担う。
- コルレス銀行・ノストロ口座
- 国際送金で送金銀行と受取銀行の間を中継する銀行と、銀行が相手行に開設する自行名義の口座。資金はこの口座の残高を振り替えて移る。
- 年率換算取扱高
- 直近30日間の取扱高を12倍して年間規模に換算した値。成長途上の決済網の規模を示す指標としてCircleが開示している。
- でんさい(電子記録債権)
- 手形に代わる法人間の支払手段として全銀電子債権ネットワークが記録・管理する電子記録債権。2025年度の発生記録請求は約1,001万件・約50.1兆円。
