ステーブルコイン決済は日本でも広がり始めた 発行の担い手は出揃い、焦点は加盟店の受け皿に移る
ステーブルコイン決済とは、円やドルに価値を連動させたデジタル通貨(日本の資金決済法では電子決済手段)をブロックチェーン上のウォレット間で直接移転して支払う決済方法です。カード会社などの仲介を通さず数秒から数分で受け渡しが完了し、日本では資金移動業型・信託型の発行と外国発行型の流通のすべてで実例が動いています。
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- キリフダ株式会社
この記事の要点
- 日本の決済に使えるデジタル資産は、暗号資産・前払式支払手段・電子決済手段(資金移動業型/信託型/外国発行)・トークン化預金の4類型に整理でき、2026年6月には仲介業まで免許の類型が出揃った
- 国内の実例は2017年のビックカメラ(暗号資産)から、トチカ(2024年・預金型)、USDC取扱い(2025年・外国発行)、JPYC(2025年・資金移動業型)、JPYSC(2026年・信託型)まで全類型で動いている
- 規模は2025年の国内キャッシュレス決済額162.7兆円に対し、JPYCの流通残高は約28.5億円(2026年8月19日時点)と桁が4つ以上違う
- コスト構造は根本的に異なり、クレジットカードの平均加盟店手数料2.63〜2.89%(売上比例)に対し、ステーブルコイン送金はネットワーク手数料の実費(1件1米ドル未満が相場)で、着金と同時に売上を使える
- 暗号資産で支払うと譲渡損益への課税(個人は原則雑所得)が発生する。円建てステーブルコインは額面1円で移転するため、決済のたびに損益が生じない設計になっている
日本の決済に価値そのものを送る選択肢が加わりつつある
日本のキャッシュレス決済額は2025年に162.7兆円、決済比率は58.0%に達しました(経済産業省、2026年3月公表)[1]。その内訳はクレジットカード・コード決済・電子マネー・デビットカードで、いずれも「支払いの指図を先に立て、あとで清算する」決済です。ここに、2025年10月発行開始の日本円ステーブルコインJPYC[2]のような「価値そのものを数秒で直接移転する」決済が加わりつつあります。JPYCは発行から10か月弱で累計約66億円分が利用者に渡り、流通残高は約28.5億円です(2026年8月19日時点、キリフダ調べ)[3]。キャッシュレス全体から見れば規模はまだ入口ですが、実例は2024年から毎年増えており、発行から流通・仲介までを支える免許の類型もすでに出揃っています。
本稿では、ステーブルコイン決済と暗号資産決済の日本国内の実例を追い、クレジットカードなど既存決済手段と規模・コスト構造を比較したうえで、資金決済法による法的整理の類型をまとめます。世界のステーブルコイン決済の規模は別稿「ステーブルコインの月間決済額が米ACHに並んだ」で、信託型を支える制度の経緯は別稿「日本のオンチェーン金融は信託銀行が支えている」で解説しています。
ステーブルコイン決済とは額面の価値を直接移転する決済
ステーブルコイン決済とは、法定通貨に価値を連動させたデジタル通貨(日本の資金決済法では「電子決済手段」と定義)をブロックチェーン上のウォレット間で直接移転して支払う決済方法です[4]。送金は数秒から数分で着金し、かかる費用はブロックチェーンのネットワーク手数料だけです。その水準は決済額の大小にかかわらず1件あたり約160円(1米ドル)未満が相場で、手数料の安いチェーンではさらに小さくなります[22][6]。受け取った側は、その瞬間から残高を次の支払いに使えます。
暗号資産決済とは、ビットコイン(Bitcoin)など価格が変動する暗号資産で代金を支払う決済方法です。日本の実例では、支払いの裏側で暗号資産を売却して円に換え、その円を店に渡す設計が主流です。たとえばメルカリのビットコイン決済は、保有するビットコインを売却し、売却代金をメルペイ残高に自動でチャージして支払う仕組みで、店側が暗号資産を受け取るわけではありません[14]。
既存決済との違いは、決済の裏側にある清算の有無です。クレジットカード決済では、カード会員と加盟店の間にイシュア(カード発行会社)・国際ブランド・アクワイアラ(加盟店契約会社)の3者が入り、請求と立替払いを連鎖させて後日清算します[5]。加盟店への入金は手数料を差し引いて後日行われます[5]。ステーブルコイン決済は、移転が完了した時点で受け手の資産になり、清算を待つ債権がそもそも発生しません(図1)。なお図1の直接移転は原理を示した形で、国内でこのまま実装される事例はまだ少なく、実際には加盟店に代わって受け取る決済事業者(アクワイアラ)が間に立つのが一般的です。その構成の違いは後述の受け取り構成の節で整理します。
法的整理は暗号資産・前払式・電子決済手段・預金の4類型でできている
日本でデジタルな価値による支払いは、資金決済法の3類型(暗号資産・前払式支払手段・電子決済手段)と銀行法の預金のどれに載るかで、発行者・金額制限・税の扱いが決まります(図2)。2023年6月1日施行の改正資金決済法は、法定通貨連動型ステーブルコインを「電子決済手段」(資金決済法第2条第5項)と定義し、発行者を銀行・信託会社等・資金移動業者に限定しました[4]。価格が変動するビットコインなどの「暗号資産」、チャージ式で払戻しが原則できない「前払式支払手段」とは別の類型です。
電子決済手段(ステーブルコイン)の実装ルートは3つあります。資金移動業型(1号電子決済手段)は資金移動業者が発行し、為替取引として1回100万円までの制限があります(100万円超は第一種資金移動業の認可が必要)[8][16]。信託型(3号電子決済手段)は信託銀行・信託会社が利用者の資金を信託財産として発行するもので、金額の上限がありません[16]。外国発行(外国電子決済手段)は、海外の発行体が発行したステーブルコインを国内の登録業者「電子決済手段等取引業者」が流通させるルートで、2025年3月にSBI VCトレードが第1号の登録を受けました[10]。
銀行預金をトークンにした「トークン化預金」は、この3ルートの外側にあります。本人確認済みの者にのみ移転でき、移転のたびに発行者(銀行)が関与する設計を取ることで、資金決済法の電子決済手段には該当せず、預金保険を含む銀行預金の枠組みのまま提供されます[8]。
税の扱いも類型で分かれます。暗号資産は価値の裏付けを持たず価格が変動するため、決済に使うと保有資産の譲渡として損益が実現し、個人では原則として雑所得に区分され課税されます[7]。円建てステーブルコインは1円=1単位の額面で移転するため、決済のたびに値上がり益への課税が発生する構造にはなっていません。一方、米ドル建ての外国電子決済手段では為替差損益が生じ得ます[7]。なお、暗号資産・電子決済手段の譲渡はいずれも支払手段に類するものとして消費税は非課税です[7]。
制度の整備は現在も続いています。2025年6月公布の改正資金決済法は、電子決済手段・暗号資産サービス仲介業の創設、信託型の裏付け資産運用の柔軟化、資金移動業者が破綻したときの資産保全方法の多様化などを盛り込み、2026年6月1日に施行されました[9]。発行と流通の枠組み(2023年6月施行)[4]は、米国の連邦ステーブルコイン法(GENIUS法、2025年7月成立)[23]より2年早く動き出しており、そこに仲介業が加わったことで、発行(3ルート)・流通(取引業)・仲介(仲介業)の免許類型が一通り揃いました。
受け取りの構成は直接移転とアクワイアラ型3構成に分かれる
資産としての類型に加えて、加盟店側がステーブルコインをどう受け取るかにも法的な構成の違いがあります。利用者が加盟店へそのまま送る直接移転型と、クレジットカードのアクワイアラにあたる決済事業者が間に立つ3つの構成(カストディ構成・債権譲渡構成・立替払い構成)に整理できます(表1、図3)。どの構成を選ぶかで、決済事業者に必要な登録と論点になる規制が変わります。
| 構成 | 資金・債権の流れ | 登録・該当性の論点 | 出所 |
|---|---|---|---|
| 直接移転型 | 利用者のウォレットから加盟店のウォレットへ直接送金 | 自己のための受け取り・保有は登録対象外、円転・管理の負担は加盟店側 | [7][24] |
| カストディ構成 | 決済事業者が加盟店のために利用者から電子決済手段を受領し、円転して加盟店へ渡す | 他人のための電子決済手段の管理として電子決済手段等取引業の登録が前提 | [24] |
| 債権譲渡構成 | 加盟店が売買代金債権を決済事業者へ譲渡、決済事業者は自己の債権の弁済として利用者から電子決済手段を受領し、譲受の対価を円で加盟店に支払う | 原則として為替取引(資金移動業の登録)への該当が論点 | [8][25] |
| 立替払い構成 | 決済事業者が加盟店に円で立替払いし、求償権の弁済として利用者から電子決済手段を受領 | 資金移動業と貸金業法上の「貸付け」への該当性が論点 | [8] |
直接移転型は、図1で示した「支払う人から受け取る店へ直接送る」形がそのまま当てはまる構成です。電子決済手段は、発行者に額面での償還を求められる金銭債権としての性格を持ちます[7]。資金決済法が電子決済手段等取引業として登録制の対象にするのは、電子決済手段の売買・交換やその媒介、そして「他人のために電子決済手段の管理をすること」であり(資金決済法第2条第10項)[24]、加盟店が自分の商品代金として受け取り、自分のウォレットで保有すること自体は、他人のための管理に当たりません。ただしこの構成では、受け取った後の円への償還、税務・会計処理、ウォレットと秘密鍵の管理をすべて加盟店自身が負います。この負担の重さから、国内の実装検討では採用のハードルが高く、決済事業者が間に立つ次の3構成が中心になっています。
カストディ構成では、決済事業者が「加盟店のために」利用者から電子決済手段を受領し、円に換えて加盟店へ渡します。他人のために電子決済手段を預かる行為そのものなので、電子決済手段等取引業の登録が前提になります[24]。国内の登録は2025年3月のSBI VCトレードが第1号です[10]。
債権譲渡構成では、加盟店がまず売買代金債権を決済事業者に譲渡します。決済事業者は自己の債権となったその代金の弁済として利用者から電子決済手段を受け取り、加盟店には債権を譲り受けた対価として円を支払います。決済事業者自身が債権者になるため電子決済手段を「他人のために」預かる形を避けられますが、資金を送り手から受け手へ移す実質は残るため、為替取引(資金移動業の登録)への該当が原則として論点になります[8]。関連する整理として、国境をまたぐ収納代行の規制(2026年6月施行)[9]では、受取人をクレジットカード加盟店や国内登録の第三者型前払式支払手段の加盟店に限定する類型が、為替取引規制の適用除外とされています[25]。
立替払い構成では、決済事業者が先に加盟店へ円で立替払いし、あとから求償権の弁済として利用者から電子決済手段を受け取ります。ここでも為替取引該当性に加えて、貸金業法上の「貸付け」への該当性が論点になります。立替サービスには利用者に信用を供与する側面があるため、支払能力の補完や信用力の考慮の程度に照らして貸付け該当性を個別に判断する枠組みが、金融審議会の報告で示されています[8]。加盟店向けの決済支援サービス[18]が実装される際にどの構成を採るかが、規制対応のコストと普及の速さを左右します。
国内の実例は2017年の暗号資産決済から2026年の信託型まで広がった
国内の実例は、暗号資産決済が先行し、2024年以降にステーブルコイン型の類型が毎年ひとつずつ加わる流れをたどっています(表2)。
暗号資産決済の代表例は小売とマーケットプレイスにあります。家電量販店のビックカメラは2017年4月に2店舗でビットコイン決済を導入し、同年7月に全店へ広げました(bitFlyerとの提携、ITmediaの報道による)[15]。メルカリは2024年2月15日、月間2,300万人が利用するマーケットプレイスにビットコイン決済機能を追加しました[14]。国内の暗号資産口座は約1,444万口座、月間の現物取引は約9,000億円(2026年6月、日本暗号資産等取引業協会)に達しますが[19]、店頭やECでの決済利用額を示す公的な統計はまだありません。
トークン化預金の実例は地方銀行から生まれました。北國銀行は2024年4月1日、預金を裏付けとするデジタル地域通貨「トチカ」を開始しました[12]。1トチカ=1円で、登録した預金口座からチャージして加盟店で支払います。加盟店手数料は開始時0.5%(税込)で[12]、2026年7月に0.99%へ改定されました[13]。初期費用と月額費用はかからず、トチカの換金は申請の翌営業日に入金されます[13]。
資金移動業型の実例がJPYCです。JPYC株式会社は2025年8月18日に資金移動業者の登録(関東財務局長第00099号)を受け、同年10月27日に国内初の日本円建てステーブルコイン(電子決済手段)としてJPYCを発行開始しました[2]。裏付け資産は円預貯金と国債で発行残高の100%以上を保全し、3年で10兆円規模の発行残高を目標に掲げています[2]。発行開始から10か月弱で、発行体から利用者に渡ったJPYCは累計約66億円分、うち約38億円分がすでに円に償還され、流通残高は約28.5億円です(2026年8月19日時点、キリフダ調べ)[3]。加盟店側の受け皿づくりも始まっており、システム大手のTISはJPYC社と基本合意を結び、店舗やECがJPYCを受け取れる決済支援サービスを2026年秋以降に提供開始する計画です[18]。
信託型の実例は2026年6月24日発行のJPYSCが国内初です。SBI新生信託銀行が発行者となり、金額上限のない特性を生かして、円とドル建てステーブルコインを交換するオンチェーン外国為替や機関投資家向けの大口取引を想定しています[16]。三菱UFJ銀行・みずほ銀行・三井住友銀行の3行も、信託契約にもとづく共同ステーブルコインで2026年度中の実取引開始をめざしています[17]。外国発行ルートでは、SBI VCトレードが2025年3月4日に電子決済手段等取引業者の登録(関東財務局長第00001号)を受け[10]、同年3月26日から米ドル建てステーブルコインUSDC(ユーエスディーシー)の一般向け取扱いを開始しました[11]。
規模はキャッシュレス162.7兆円に対して流通残高28億円
規模の差は率直に言って歴然としています。2025年の国内キャッシュレス決済額162.7兆円の内訳は、クレジットカード134.6兆円(82.7%)、コード決済16.6兆円(10.2%)、電子マネー6.0兆円、デビットカード5.5兆円です[1](表3)。これに対しJPYCの流通残高は約28.5億円[3]で、年間決済額と残高という物差しの違いを踏まえても、桁が4つ以上違います。ステーブルコイン決済は、日本の決済統計にまだ現れない規模です。
ただし、決済手段の交代は過去15年で実際に起きてきました。キャッシュレス決済額は2010年の38.3兆円から2025年の162.7兆円へ4.2倍になり[1](図4)、なかでもコード決済は2018年の0.2兆円から2025年の16.6兆円へ、7年で約80倍に拡大しました[1]。決済額を件数で割った1件あたりの単価は、単純計算でコード決済が約1,200円、クレジットカードが約5,900円です[1]。少額の日常決済から新しい手段が浸透する経路は、コード決済が実証済みです。一方で電子マネーの決済額は6.0兆円と伸び悩んでおり[1]、新しい手段がすべて伸び続けるわけではないことも同じ統計が示しています。
資金フローの中身を見ると、JPYCは保有され続けるより回転しています。利用者に渡った累計約66億円分に対し流通残高は約28.5億円で、6割近くが償還済みです[3]。また流通残高の約7割はKaiaチェーン上にあります(2026年8月19日時点、キリフダ調べ)[3]。滞留した残高が積み上がる預金型の成長ではなく、送金や交換の用途ごとに発行と償還を繰り返す使われ方が現在の実態です。チェーン別の内訳と推移はJPYCオンチェーンダッシュボードで毎日更新しています。
加盟店のコストは売上に比例する手数料から定額の実費に変わり得る
コスト構造の違いは、規模の差より本質的です。公正取引委員会の実態調査では、クレジットカードの平均加盟店手数料率はカテゴリーⅠ(Visa・Mastercard等)で2.63%、カテゴリーⅡ(JCB・American Express等)で2.89%でした(2022年4月公表)[5]。加盟店手数料の約7割は、アクワイアラからイシュアに支払われるインターチェンジフィーが占めると政府の成長戦略実行計画は指摘しています[5]。コード決済ではPayPayの決済手数料が1.98%(税別、有料プラン契約で1.60%)です[20]。銀行振込では、2021年10月に銀行間手数料が1件62円の内国為替制度運営費に置き換えられ、これに各行が顧客に課す振込手数料が上乗せされます[21]。各手段の比較は表4のとおりです。
ステーブルコイン決済はクレジットカードと比べて、手数料が売上に比例する「率」ではなくチェーンの実費という「固定額数円」である点、売上が締め日を待たず着金と同時に使える点で異なります。ただしこの比較には注記が要ります。クレジットカードの手数料には、立替払いに伴う信用リスクの負担、不正利用への対応、ポイント原資、システム維持といった機能の対価が含まれています[5]。ステーブルコイン決済ではこれらの機能自体が存在しないか、加盟店側が円への償還、税務・会計処理、ウォレットと秘密鍵の管理といった別のコストとして負うことになります。手数料率の差だけで優劣は決まりません。
それでも、価値が即時に移転するため立替払いと清算の仕組みそのものが不要になるという構造の違いは残ります。仲介者の連鎖が生む手数料と入金待ちの時間(図1)が原理的に発生しないため、既存手段が提供しにくい領域、たとえば24時間365日の即時決済、少額高頻度の決済、訪日客がウォレットからそのまま支払うインバウンド決済が最初の用途として狙われています。TISとJPYC社の提携も加盟店決済とインバウンド対応を対象領域に掲げています[18]。
リスクと限界は税制・受け皿・保全の3点に残っている
第一に税制です。個人が暗号資産で支払うと、そのたびに譲渡損益が実現し、原則として雑所得として課税されます[7]。少額の買い物でも損益計算の記録が必要になるため、暗号資産の決済利用が保有口座数(約1,444万口座[19])に比べて広がりにくい要因になっています。円建てステーブルコインには決済時の損益が生じない一方、米ドル建てのUSDCなどでは為替差損益の計算が必要になり得ます[7]。
第二に受け皿です。ステーブルコインをそのまま受け取れる国内の店舗網はまだ立ち上がっておらず、決済額を示す公的統計もありません。JPYCの流通残高約28.5億円[3]という規模は、加盟店網が整う前の段階の数字です。決済インフラとしての評価は、TISの決済支援サービス(2026年秋以降開始予定)[18]のような受け皿が実装されてからになります。
第三に破綻時の保全と利用者保護です。資金移動業型の裏付け資産は全額保全が義務ですが、発行者が破綻した場合は供託等からの還付手続を経る構造です[8]。2026年6月施行の改正で信託を使った返還方法などが多様化されました[9]。信託型は倒産隔離により発行者破綻の影響を受けない一方、発行者が信託銀行・信託会社に限られます[16]。また、電子決済手段の交換・管理を業として行うには登録が必要で[4]、登録のない海外サービスを経由した保有・流通は日本の利用者保護の枠外になります。
制度が先に整い、実例が後から埋めている
日本のステーブルコイン・暗号資産決済は、市場より制度が先に完成した分野です。2023年6月の電子決済手段の創設[4]から2026年6月の仲介業の施行[9]まで、発行・流通・仲介の免許類型が3年で出揃い、暗号資産・トークン化預金・外国発行・資金移動業型・信託型のすべてに実例が載りました(表2)。発行の枠組みを米国の連邦法成立(2025年7月)[23]より2年早く整えた点で、市場より制度が先行するこの順序は世界的にも珍しいものです。
規模は、キャッシュレス決済162.7兆円[1]に対して流通残高約28.5億円[3]と、比較にならない段階です。ただしコード決済も2018年には0.2兆円でした[1]。7年で約80倍に育った前例を踏まえれば、規制と加盟店網が揃ったとき、決済手段の交代は速く進みます。追うべき先行指標は残高の絶対額よりも、発行と償還の回転[3]、加盟店側の受け皿の立ち上がり[18]、そして信託型による大口決済の実取引[16][17]です。キリフダはJPYCオンチェーンダッシュボードでこの動きを継続的に計測しています。
よくある質問
- ステーブルコイン決済とは何ですか
- ステーブルコイン決済とは、円やドルなど法定通貨に価値を連動させたデジタル通貨(日本の資金決済法では電子決済手段)を、ブロックチェーン上のウォレット間で直接移転して支払う決済方法です。カード会社などの仲介を通さず数秒から数分で受け渡しが完了し、手数料はブロックチェーンのネットワーク手数料(1件あたり1米ドル未満が相場)だけです。
- 日本でステーブルコイン決済の実例にはどんなものがありますか
- 資金移動業型では2025年10月発行開始のJPYC(流通残高約28.5億円、2026年8月時点)、信託型では2026年6月発行のJPYSC、外国発行型では2025年3月からSBI VCトレードが取り扱うUSDCがあります。預金を裏付けとするトークン化預金では北國銀行のトチカ(2024年4月開始)が先行しています。店舗での受け取りを支援するサービスはTISが2026年秋以降の提供開始を計画しています。
- ステーブルコイン決済と暗号資産決済は何が違いますか
- ステーブルコインは法定通貨に価値が連動し、円建てなら額面1円で移転するため決済のたびに損益が生じません。暗号資産は価格が変動するため、支払いに使うと譲渡損益が実現し、個人では原則雑所得として課税されます。日本の暗号資産決済の実例(メルカリなど)は、裏側で暗号資産を売却して円で支払う設計が主流です。
- 電子決済手段とは何ですか
- 電子決済手段とは、2023年6月施行の改正資金決済法が定めた法定通貨連動型ステーブルコインの法的な類型です(資金決済法第2条第5項)。発行できるのは銀行・信託会社等・資金移動業者に限られます。実装ルートは、資金移動業者が発行する資金移動業型(1号)、信託銀行・信託会社が発行し金額上限のない信託型(3号)、海外発行のステーブルコインを国内の電子決済手段等取引業者が流通させる外国発行型の3つです。
- トークン化預金はステーブルコインと何が違いますか
- トークン化預金は銀行預金そのものをトークンにしたもので、本人確認済みの相手にのみ移転でき、移転に銀行が関与します。この設計により資金決済法の電子決済手段には該当せず、預金保険を含む銀行預金の枠組みで提供されます。北國銀行のトチカが代表例で、1トチカ=1円、加盟店手数料は0.99%(税込、2026年7月改定)です。
- 加盟店がステーブルコインを受け取るには登録が必要ですか
- 加盟店が自分の商品代金として受け取り、自分のウォレットで保有するだけなら登録は不要です。ただし円への償還や税務・ウォレット管理を店が自ら負うため、国内では採用のハードルが高い構成です。実務ではアクワイアラにあたる決済事業者が間に立つ3構成が中心で、加盟店のために電子決済手段を受領して円転するカストディ構成は電子決済手段等取引業の登録が前提、加盟店の売買代金債権を譲り受けて回収する債権譲渡構成は為替取引(資金移動業)への該当が原則として論点、円で先に立替払いする立替払い構成は資金移動業と貸金業法上の貸付けへの該当性が論点になります。
- ステーブルコイン決済はクレジットカードよりコストが安いのですか
- 手数料の構造が異なります。クレジットカードの平均加盟店手数料は2.63〜2.89%(公正取引委員会、2022年4月公表)で売上に比例するのに対し、ステーブルコイン送金はネットワーク手数料の実費(1件1米ドル未満が相場)で、着金と同時に売上を使えます。ただしカード手数料には立替払いの信用リスクや不正対応などの機能の対価が含まれており、ステーブルコインでは円への償還や税務・会計処理、ウォレット管理のコストを加盟店側が別途負うため、率の差だけで優劣は決まりません。
- 暗号資産で買い物をすると税金はどうなりますか
- 個人が暗号資産を決済に使うと、その時点で保有資産の譲渡として損益が実現し、原則として雑所得に区分され所得税の課税対象になります(国税庁FAQ)。買い物のたびに損益計算の記録が必要です。なお暗号資産・電子決済手段の譲渡は消費税は非課税です。
- 日本のステーブルコイン法制は海外より進んでいるのですか
- 施行の時期では先行しています。日本は2023年6月に電子決済手段の枠組みを施行し、米国の連邦ステーブルコイン法(GENIUS法)成立の2025年7月より2年早く発行ルールを整えました。2026年6月には電子決済手段・暗号資産サービス仲介業の創設や信託型の裏付け資産運用の柔軟化を含む改正も施行され、発行・流通・仲介の免許類型が揃っています。
用語集
- 電子決済手段
- 法定通貨連動型ステーブルコインの資金決済法上の類型。発行者は銀行・信託会社等・資金移動業者に限られる。
- 資金移動業
- 銀行以外の事業者が為替取引(送金)を業として行うための登録制度。第二種は1回100万円までの送金を扱える。
- 電子決済手段等取引業
- 電子決済手段の売買・交換・管理などを業として行うための登録制度。外国発行ステーブルコインの国内流通もこの登録業者が担う。
- トークン化預金
- 銀行預金をブロックチェーン上のトークンとして発行するもの。本人確認済みの相手への移転に限られ、電子決済手段には該当しない扱い。
- インターチェンジフィー
- クレジットカード決済でアクワイアラ(加盟店契約会社)からイシュア(カード発行会社)に支払われる手数料。加盟店手数料の約7割を占めるとされる。
- 前払式支払手段
- 代金を前払いしてチャージし、その残高で支払う決済手段。交通系ICカードや商品券など。原則として払戻しができない。