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ステーブルコインの共同発行がSWIFT型の会員制に向かい始めた 21社が新会社設立へ

ステーブルコインの共同発行とは、競合する複数の金融機関が資金を出し合って新会社を設立し、その会社が発行体となってステーブルコインを発行する方式です。単独発行と異なり、ライセンス取得や準備資産管理などの固定費を参加行で分担し、出資比率に応じた共同のガバナンスで意思決定を行います。

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読了目安
約12分
執筆
キリフダ株式会社

この記事の要点

  • 2026年9月にBank of America・Citi・三菱UFJ銀行など21金融機関がステーブルコイン発行会社の共同設立を表明し、欧州の銀行連合Qivalisは8か月で参加行が9行から37行に増えた
  • この組織形態は目新しくない。SWIFTは約2,400の金融機関が株主となる協同組合、CLS Bankは75超の銀行が共同出資する決済専用銀行として同種の機能を担ってきた
  • 日本の3メガバンクは新会社ではなく、3行を共同委託者とする信託型でステーブルコインを発行する方式を採り、2026年度中の実取引開始をめざしている
  • 共同出資の利点はライセンス・コンプライアンス・準備資産管理という固定費を参加行で分担できる点にある一方、Visa・Mastercardは同じ会員所有の構造が規制・法的圧力を招き株式会社化した
  • 複数のコンソーシアムが並立する段階で、SWIFTのような単一標準への集約が進むか規格の乱立に終わるかは、まだ見えていない

ステーブルコインの共同発行とは、競合する金融機関が共同出資で発行会社を作ることです

2026年9月1日、Bank of America、Citi、Goldman Sachs、三菱UFJ銀行、UBSなど21の金融機関が、ステーブルコインを発行する新会社を共同で設立すると発表しました[1]。欧州の銀行連合「Qivalis」は2025年9月の9行から2026年5月の37行へと8か月で3倍超に増え[2][3]、日本の3メガバンクも2026年度中に共同発行のステーブルコインで実取引を始めるとしています[5]。

ステーブルコインの共同発行とは、競合する複数の金融機関が資金を出し合って新会社を設立し、その会社が発行体となってステーブルコインを発行する方式です。ライセンス取得・準備資産の管理・システム開発の固定費を参加行で分担し、意思決定にも出資比率に応じて関与します。この組織形態は新しい発明ではなく、国際的な決済インフラの多くが同じ形で作られてきました。

国際送金網SWIFTも外為決済のCLS Bankも競合行の共同出資で作られました

国際送金のメッセージ網であるSWIFT(国際銀行間通信協会)は、利用者が所有するベルギー法上の協同組合です。200超の国・地域にいる約1万1,800の利用機関のうち約2,400が株主で、株式は各社の利用量に応じて割り当てられます(2024年時点)[6]。1日平均5,330万件のメッセージを処理し(2024年)[6]、株主が選んだ取締役会がガバナンスを担っています[7]。

外国為替の決済に特化したCLS Bankは、さらに近い前例です。異なる通貨の支払いを同時に行うPVP(Payment versus Payment)で、片方の通貨だけ払って相手が不履行になる決済リスクをなくすために2002年に設立されました。Barclays、Citibank、HSBC、JPMorganなど75超の大手銀行が株主兼決済参加行で、1日平均8兆米ドル超(約1,259兆円)を決済しています[8]。

表1 既存金融の会員制インフラの規模
インフラ設立/開始所有する金融機関数担う機能
SWIFT1973年約2,400(2024年時点)[6]国際送金のメッセージ伝送
CLS Bank2002年75超(2026年9月時点)[8]外国為替の同時決済(PVP)
Visa(IPO前)〜2007年約1万6,400(2007年3月時点)[9]カード決済ネットワーク
Mastercard(IPO前)〜2005年約2万5,000(2005年時点)[10]カード決済ネットワーク
EPI/Wero2024年18行(設立時)[11]欧州域内の即時決済

VisaとMastercardも、株式会社化するまでは会員の金融機関が所有する組織でした[9][10]。2024年に設立された欧州の即時決済網EPIも、18行の共同出資から始まっています[11]。競合する金融機関が共同で会社を作る理由は共通しています。決済インフラは特定の1社に有利であってはならず中立性が必要なこと、そしてライセンス取得や規制対応の固定費は利用量にかかわらず発生し、複数社で分担したほうが割安になることです。

現在のステーブルコイン共同発行は参加機関数で見ればまだ数十社の段階です

表2 主要なステーブルコイン共同発行の概要
取り組み参加機関数対象通貨想定ローンチ
Qivalis(欧州)37行(2026年5月時点)[3]ユーロ2026年下期[2]
21金融機関の新会社(米欧亜阿)21社(2026年9月時点)[1]米ドル(将来はG7通貨へ拡大)会社設立2026年下期、市場投入2027年上期[1]
日本3メガバンク(三菱UFJ・三井住友・みずほ)3行(共同委託者)[4][5]未公表2026年度中に実取引開始[5]
EJPY実証実験パートナーズ(日本)26社・団体(2026年9月時点)[12]円建て(信託型)2026年9月〜2027年2月に実証

参加機関数で見ると、37行のQivalisや21社の新会社は、株主約2,400のSWIFTや1万社を超えていたIPO前のVisa・Mastercardより2桁少ない規模です(表1、表2)。一方、決済インフラを共同所有するCLS Bankの株主75超と比べれば、Qivalisはすでに半分の水準にあります。

金融機関の連携は、誰が発行し誰が出資するかで型が分かれます

複数の金融機関が関わるステーブルコインでも、契約主体(誰が顧客と契約するか)、出資構造(誰がリスクを負うか)、収益の分配(誰が対価を得るか)は型によって異なります(表3)。

表3 金融機関の連携の型と契約主体・収益分配
型契約主体出資構造収益の分配例
単独発行発行体1社1社が全額出資発行体が独占JPYC
共同出資の発行会社新設の共同会社参加行が出資比率に応じ出資出資比率に応じ配分Qivalis、21金融機関の新会社
共同委託の信託型受託者の信託銀行新会社なし。複数行が共同委託者非公表日本の3メガバンク[4][5]
オープンネットワーク型単一の発行体(例:Paxos)出資関係なし。契約ベースの参加利用量に応じた収益シェアGlobal Dollar Network(USDG)[13]
ベンダー提携(MOU)各社が個別に契約出資なし契約条件次第JCB×Circle[14]

SWIFT・CLS Bankに最も近いのは「共同出資の発行会社」型です。日本の3メガバンクは新会社を作らず、3行を共同委託者、信託銀行を受託者とする信託契約に基づき、資金決済法上の特定信託受益権としてステーブルコインを発行する方式を採っています[4][5]。日本で信託がこの役割を担う理由は、別稿「日本のオンチェーン金融は信託銀行が支えている」で解説しています。Global Dollar Network(USDG)はPaxosが単独で発行し、Kraken・Robinhoodなどの参加社は出資せずに流通量に応じた収益シェアを受け取ります[13]。

Qivalisの参加行は8か月で9行から37行に増えました

Qivalisは2025年9月にCaixaBank、ING、UniCreditなど9行で発足を表明し、同年12月にBNPパリバが加わって10行で正式に始動しました[2]。2026年5月には25行が新たに加わって37行となり、拠点は欧州15カ国に広がっています[3]。参加行が3倍超に増えた背景には、先行行が整えた認可と技術基盤に後発行が相乗りでき、単独でMiCA準拠の認可を取るより参入の負担が軽いという、共同出資モデルの構造があります。

越境送金・企業の資金移動・国内実証の3領域で先行事例が動いています

  • 越境送金:Progmatと3メガバンクなどが進める「Project Pax」は、SWIFTの既存APIを使って24時間365日のステーブルコイン送金を検証しています[15]。コルレス銀行を介さない点は、別稿「銀行間の大口決済が24時間動き出す」のトークン化預金と共通します
  • 企業の資金移動:3メガバンクと三菱UFJ信託銀行の実証では、共同で発行したステーブルコインを三菱商事の日本拠点と海外拠点の間の決済に使えるかを検証しています[4]
  • 国内実証:日本ブロックチェーン基盤の「ステーブルコイン実証実験パートナーズ」には東芝・SCSKなど26社・団体が参加し、円建て信託型ステーブルコイン「EJPY」を2026年9月から2027年2月にかけて検証します[12]

会員制モデルは規制・法的圧力や規格の乱立という限界も抱えています

第一に、共同所有という組織の形が続く保証はありません。Mastercardは株式会社化の際の届出書(S-1)で、会員所有の構造に向けられた法的・規制上の課題に直面してきたと記し[10]、Visaも2007年6月に地域ごとの会員組織を再編してVisa Inc.として株式会社化しました[9]。

第二に、規格の乱立です。Qivalis、21金融機関の新会社、日本の3メガバンク、USDGなどが同時に動いており、SWIFTのように単一の標準へ集約されるのか、通貨圏ごとに分立したままになるのかは、まだ見えていません。

ステーブルコインの発行は、単独の1社から競合行の共同事業へ重心を移し始めています

Qivalisは8か月で参加行を3倍超に増やし、21の国際金融機関が新会社の設立を表明し、日本の3メガバンクも2026年度中の実取引開始をめざしています。この組織の形はSWIFTやCLS Bankに数十年の実績があります。既存金融が繰り返し選んできた「中立性の確保」と「固定費の分担」という理由が、ステーブルコインの発行でも働き始めています。

よくある質問

ステーブルコインの共同発行とは何ですか
複数の金融機関が資金を出し合って新会社を設立し、その会社が発行体となってステーブルコインを発行する方式です。単独発行と異なり、ライセンス取得や準備資産管理などの固定費を参加行で分担し、出資比率に応じて意思決定に関与します。2026年9月時点で、21の国際金融機関による新会社設立や、欧州37行が参加する「Qivalis」などの事例があります。
なぜ銀行は単独ではなく共同でステーブルコインを発行するのですか
決済インフラは特定の1社に有利であってはならず中立性が求められること、そしてライセンス取得や規制対応にかかる固定費を複数行で分担できることが理由です。国際送金網SWIFTや外国為替の同時決済を担うCLS Bankも、同じ理由で競合行が共同所有する組織として作られました。
SWIFTやCLS Bankとステーブルコインの共同発行はどう違いますか
SWIFTは送金メッセージの伝送、CLS Bankは外国為替の同時決済に特化した既存の会員制インフラで、それぞれ1970年代と2000年代から稼働しています。ステーブルコインの共同発行はまだ参加行数が数十社の段階で、Qivalisの37行(2026年5月時点)はCLS Bankの株主75超の半分程度、SWIFTの株主約2,400(2024年時点)とは2桁の差があります。
日本でもステーブルコインの共同発行は進んでいますか
三菱UFJ・三井住友・みずほの3メガバンクが、3行を共同委託者、信託銀行を受託者とする信託型のステーブルコインを共同で発行する準備を進めています。2025年11月に金融庁の実証実験の支援案件に採択され、2026年6月には2026年度中の実取引の開始をめざすと発表しました。日本ブロックチェーン基盤の実証プログラムにも東芝・SCSKなど26社・団体が参加しています。
共同出資モデルのリスクは何ですか
Visa・Mastercardは会員銀行の共同所有という組織形態が規制・法的圧力を招き、2006〜2008年に株式会社化しました。同じ構造上のリスクをステーブルコインの共同発行も抱えています。また、複数のコンソーシアムが並立しており、SWIFTのような単一標準に集約されるかは見えていません。出資比率や議決権配分など、ガバナンスの詳細の多くも非公開です。
Global Dollar Network(USDG)は共同発行と同じ仕組みですか
異なります。USDGはPaxosが単独で発行し、Anchorage DigitalやKraken、Robinhoodなど参加7社は出資せず、販売・流通量に応じた収益シェアを受け取る「オープンネットワーク」型です。Qivalisや21金融機関の新会社のように参加行が出資して発行会社を共同所有する形とは、リスクと収益の帰属先が異なります。

用語集

共同発行(コンソーシアム型ステーブルコイン)
複数の金融機関が出資し合って新会社を設立し、その会社がステーブルコインを発行する方式。
SWIFT(国際銀行間通信協会)
国際送金のメッセージを伝送する、利用する金融機関が所有する協同組合。
CLS Bank
外国為替取引の決済リスクを無くすため、大手銀行が共同出資して設立した決済専用銀行。
PVP(Payment versus Payment)
異なる通貨の支払いを同時に実行し、片方だけ払って相手が不履行になるリスクを防ぐ決済方式。
MiCA(暗号資産市場規制)
EUの暗号資産・ステーブルコインに関する包括的な規制枠組み。
特定信託受益権
資金決済法上の電子決済手段の一つで、信託銀行などが受託者となって発行する信託型のステーブルコイン。