オンチェーンデータで見るEthereumステーキング市場 ── 規模・利回り・バリデーター構造の変化
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エグゼクティブサマリー
前回までの記事では、Ethereum(イーサリアム)のステーキングの仕組みと、ステーカーに支払われる報酬を巡る経済設計について解説しました。では、実際のEthereumステーキング市場では何が起きているのでしょうか。 Ethereumのステーキング市場は、現在も拡大を続けています。Ethereumでステーキングが開始された2020年12月以降、ステーキングされるETHは長期的に増加し、ETH供給量に占めるステーキング率も上昇してきました。一方で、市場の拡大を支える構造には変化が見られます。2026年には総ステーク量が増加する一方、アクティブバリデーター数は減少し、1バリデーターあたりの平均Effective Balanceは上昇しています。 また、ステーキング率が上昇する一方、推計されるステーキング利回りは低下しています。新規バリデーター数や、ステーキング開始待ちの状況を示すActivation Queueにも、2024年と現在では異なる動きが見られます。さらに、ステーキングされるETHの一部はLido(ライド)やCoinbase(コインベース)などのサービスや事業者を通じて運用されており、「どれだけのETHがステーキングされているか」だけでなく、「誰が、どのような構造でステーキングしているのか」を見ることも重要です。 こうした変化は、ステーキング付きETH ETFを設計する金融機関にとっても無関係ではありません。ETFが得られるステーキング収益を考えるには、現在のAPRだけを見ることはできません。ステーキング率の上昇によって利回りがどう変化するのかを考える必要があります。また、誰にバリデーター運用を委託するのか、ステーキングするETHと投資家からの解約に備える流動性をどう両立するのかも重要です。 そこで本稿では、Dune Analyticsのオンチェーンデータをもとに、Ethereumの総ステーク量、ステーキング率、バリデーター数、事業者別シェア、推計利回り、ETHの流入・引き出しなどを分析します。Ethereumステーキング市場がどのように成長し、その構造がどう変化しているのかを整理したうえで、ステーキング付きETH ETFの商品設計にどのような論点をもたらすのかを考えます。
ステーキング市場はどこまで成長したのか
Ethereumのステーキング市場がどこまで成長しているのか、まず総ステーク量とステーキング率から確認します。
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Ethereumでステーキングが開始された2020年12月以降、総ステーク量は長期的に増加しています。2023年には一時的に増加ペースが鈍化する局面もありましたが、その後再び増加し、2026年9月には4,000万ETHを大きく上回りました。
ただし、総ステーク量だけではEthereum全体におけるステーキング市場の大きさは分かりません。ETHの総供給量そのものが変化するためです。そこで、ステーキングされているETHが総供給量に占める割合である「ステーキング率」も確認します。

ステーキング率も総ステーク量と同様に長期的な上昇傾向にあります。2021年初頭には1%未満でしたが、2023年には10%台から20%台へ上昇し、2026年には30%台半ばまで拡大しました。つまりEthereumでは、ステーキングされるETHが絶対量として増えているだけでなく、ETH総供給量に占める割合も高まっています。
この2つの指標から見ると、Ethereumのステーキング市場はステーキング開始以降、長期的に拡大してきたといえます。一方で、ここで分かるのはあくまで市場全体の規模です。総ステーク量が増えたからといって、それを支えるバリデーター数も同じように増えているとは限りません。
実際、2026年のEthereumでは、総ステーク量が増加する一方で、アクティブバリデーター数は減少するという、これまでとは異なる動きが見られます。次に、ステーキング市場の拡大を支えるバリデーターの構造に何が起きているのかを見ていきます。
ステーク量が増えているのになぜバリデーターは減っているのか
Ethereumの総ステーク量が増加している一方、そのETHを使ってコンセンサスに参加するアクティブバリデーター数には異なる動きが見られます。
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アクティブバリデータ数は2021年以降、総ステーク量とともに増加し、2024年から2025年にかけて100万を超えました。しかし、その後は増加が止まり、2026年には減少に転じています。前章で見たように、同じ期間にも総ステーク量は増加しているため、「ステーク量は増えているのに、バリデータ数は減っている」という乖離が生じています。
この変化を理解するうえで重要なのが、2025年5月に実施されたEthereumの大型アップグレード「Pectra(ペクトラ)」です。Pectraに含まれるEIP-7251というコミュニティ提案では、バリデータがコンセンサスに参加する際の最低残高を32 ETHに維持したまま、1バリデータあたりの最大Effective Balanceが従来の32 ETHから2,048 ETHへ引き上げられました。Effective Balanceとは、単なるバリデータの残高ではなく、投票ウェイトや報酬などの計算に使用される有効なステーク量です。
これにより、一定の条件を満たすバリデータでは32 ETHを超えるETHを1つのバリデータで運用できるようになりました。また、複数のバリデータを統合する「Consolidation(コンソリデーション)」も可能になっています。そのためPectra以降は、ステーク量を増やすために32 ETHごとに新しいバリデータを増やし続ける必要がなくなりました。
この変化は、1バリデータあたりの平均Effective Balanceにも表れています。

2024年からPectra以前まで、平均Effective Balanceは約32 ETHでほぼ横ばいでした。しかしPectra後に上昇を始め、2026年には40 ETHを超え、足元では40 ETH台後半まで上昇しています。
つまり現在のEthereumでは、「総ステーク量の増加」「アクティブバリデーター数の減少」「平均Effective Balanceの上昇」が同時に起きています。これは、Pectra以前のようにステーク量とバリデーター数が比較的連動して増える構造から、より多くのETHを1つのバリデーターで扱える構造への移行と整合的です。
ただし、今回のデータだけから、アクティブバリデーター数が減少した原因をConsolidationだと断定することはできません。また、バリデーター数はステーカーや運用事業者の数とも一致しないため、バリデーター数の減少をそのまま「ステーキング参加者の減少」や「Ethereumの分散性の低下」と解釈することもできません。
ステーキング付きETH ETFを設計する事業者にとっても、この構造変化は重要です。今後はバリデーター数だけではなく、各バリデーターがどれだけのETHを運用しているのかを含めて、ステーキング市場の運用構造を捉える必要があります。
誰がステーキング市場を担っているのか
Ethereumのステーキング市場を理解するには、ステーク量だけでなく、「誰がそのETHのステーキングに関与しているのか」を見ることも重要です。
Ethereumでは、ETH保有者が自らバリデーターを運用できます。一方、CoinbaseやFigmentなどのステーキングサービスや、Lidoのような分散型ステーキングプロトコルを通じてステーキングすることもできます。
本稿では、こうしたステーキングサービス事業者と分散型ステーキングプロトコルを、グラフ上の分類に合わせて便宜上「ステーキング事業者」と表記します。
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2024年以降の事業者別シェアを見ると、Lidoが最大のシェアを占めています。ただし、その割合は期間を通じて低下しています。一方、Coinbase、Binance(バイナンス)、Figment(フィグメント)、Kiln(キルン)、ether.fi(イーサファイ)など、複数の事業者がEthereumのステーキングを担っています。
一方、このグラフを読む際には注意が必要です。Dune Analyticsでは、すべてのバリデーターを特定の事業者やステーカーに紐づけられるわけではなく、グラフには「ラベル未付与」に分類されるバリデーターが大きな割合を占めています。
この「ラベル未付与」は、個人が自らバリデーターを運用するソロステーカーを意味するものではありません。単にDune Analyticsのラベルデータから運用主体を特定できていないバリデーターも含まれます。そのため、このデータからLidoなど特定のステーキング事業者のシェアの変化を確認することはできますが、Ethereum全体のステーキングがどの程度分散しているのかを正確に判断することはできません。
それでも、ステーキング付きETH ETFを設計する金融機関にとって、どのステーキング事業者がどの程度のETHの運用に関与しているのかは重要な情報です。ETFが外部のステーキング事業者を利用する場合、利回りや手数料だけでなく、特定の事業者への集中や運用規模なども考慮する必要があります。
ステーキング率が上昇する一方、利回りは低下
ステーキング市場の拡大は、ステーカーが得られる利回りにも関係します。
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グラフでは、Ethereumのステーキング率が上昇する一方、推計利回りは低下する傾向が見られます。
この推計利回りは、Consensus Issuanceによって発行されるETHに加え、オンチェーンデータサイト「Artemis(アルテミス)」が提供する指標「Validator Fees」を用いて算出したものです。そのため、すべてのバリデーターが実際に得た利回りを示すものではなく、一定のデータと計算方法に基づく推計値として見る必要があります。
ステーキング率と利回りの関係を考えるうえで重要なのが、第2回「Ethereumはステーカーにいくら支払うべきなのか──ステーキング経済を巡る議論」で取り上げたReward Curveです。
Ethereumでは、ステークされるETHが増えるほどConsensus Issuanceによる報酬の総額は増加しますが、ステークされた1 ETHあたりの報酬率には低下圧力がかかります。そのため、ステーキング率の上昇と利回りの低下が同時に起こること自体は、Ethereumの報酬設計と整合的です。
ただし、今回の推計利回りにはConsensus Issuance以外の収益も含まれるため、グラフに見られる利回り低下のすべてをステーキング率の上昇だけで説明することはできません。ここで重要なのは、ステーキング市場が拡大しても、ステーカーが得られる利回りが同じ水準で維持されるとは限らないという点です。
これはステーキング付きETH ETFの収益を考えるうえでも重要です。現在のAPRをそのまま将来の利回りとして想定するのではなく、ステーキング率やその他の収益源の変化によって、ETFが得られるステーキング収益も変動する可能性を考える必要があります。
足元のステーキング需要はどうなっているのか
ここまで見てきたように、Ethereumのステーキング市場は長期的に拡大してきました。では、足元でも新たにステーキングへ参加する動きは続いているのでしょうか。
第1回「ステーキング付きETH ETFを理解するためのEthereumステーキング入門」で説明したように、EthereumではETHをデポジットすると、すぐにバリデーターとして稼働できるわけではありません。デポジット後にステーキング開始までの待機期間があり、稼働後にステーキングを終了する場合も、退出からETHを引き出せるようになるまで一定のプロセスがあります。
そこでまず、このライフサイクルの入口にあたる新規バリデーター数を確認します。
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新規バリデーター数の30日移動平均は、2024年初頭には1日あたり3,000近くまで増加する局面がありました。その後は増減を繰り返しながら低下し、2026年にはおおむね500前後で推移しています。2024年と比べれば、新規バリデーターが追加されるペースは低下していますが、新たなバリデーターの追加自体は続いています。
この動きを、前章で確認したアクティブバリデーター数と合わせて見ると、2026年にはアクティブバリデーター総数が減少する一方、新規バリデーターの追加は継続していることが分かります。
ただし、新規バリデーター数は1日あたりの追加数、アクティブバリデーター数はその時点の総数を示すため、両者の水準を直接比較することはできません。それでも、アクティブバリデーター数の減少を、単純に新規参加がなくなった結果と捉えることはできないでしょう。
では、新たに参加するバリデーターは、ステーキングを開始するまでどの程度待っているのでしょうか。
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Ethereumでは、新しいバリデーターを一度に無制限に有効化するのではなく、一定のペースで有効化します。新たに参加しようとするバリデーターがこの処理能力を上回ると、ステーキング開始待ちであるActivation Queueが発生します。
Activation Queueは2024年には2,000を超える局面があり、2024年末や2025年前半にも増加しましたが、2025年後半以降は低い水準で推移しています。
ただし、Activation Queueが少ないことは、ステーキング需要がないことを意味しません。Activation Queueが示すのは需要そのものではなく、新たなバリデーターを有効化する需要がEthereumの処理能力をどの程度上回っているかです。新規バリデーター数と合わせると、足元でも新規参加は続いているものの、大規模な開始待ちが発生する状況ではないことが分かります。
最後に、バリデーター数とは別に、ステーキングに伴うETHそのものの流れを確認します。
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デポジットと引き出しは月ごとの変動が大きく、現在もステーキングに伴うETHの流入と引き出しが続いています。
ここで注意したいのは、引き出されたETHのすべてが、バリデーターがステーキングを終了したことによるものではない点です。Ethereumでは、バリデーターがステーキングを終了して残高を引き出す場合だけでなく、ステーキングを継続しながら報酬などの一部を引き出すこともできます。そのため、引き出し額をそのままステーキングからの退出額として捉えることはできません。
このように足元の需要を見る場合も、新規バリデーター数、Activation Queue、ETHのデポジットと引き出しを分けて捉える必要があります。現在は新規参加が続く一方、2024年に見られたような大規模な開始待ちは発生しておらず、ステーキング市場への参加状況は当時とは異なる局面にあります。
オンチェーンデータがETF設計者に示すもの
ここまでのオンチェーンデータから見えてくるのは、Ethereumのステーキング市場が拡大を続ける一方、その拡大を支える構造も変化していることです。
総ステーク量とステーキング率は長期的に上昇していますが、2026年にはアクティブバリデーター数が減少する一方、1バリデーターあたりの平均Effective Balanceは上昇しています。また、新規バリデーターの追加は続いているものの、Activation Queueは低い水準で推移しています。
こうした変化は、ステーキング付きETH ETFの商品設計にも関係します。
まず、ETFが将来得られるステーキング収益です。今回のデータでは、ステーキング率が上昇する一方、推計利回りは低下傾向にありました。Ethereumではステーク量が増えるほどConsensus Issuanceによる1 ETHあたりの報酬率に低下圧力がかかるため、現在のAPRをそのまま将来の収益率として想定するのではなく、ステーキング率の変化に応じた複数の利回りシナリオを考える必要があります。
次に、バリデーター運用を誰に委託するかという問題です。Pectra以降は、一定の条件を満たすバリデーターが32 ETHを超えるEffective Balanceを持てるようになったため、バリデーター数だけでは運用規模を判断しにくくなっています。また、事業者別シェアを見ると、LidoやCoinbaseなど複数のステーキング事業者が大きな役割を担っています。ETFがステーキング事業者を選定する際には、利回りや手数料だけでなく、各事業者が運用するETHの規模やバリデーター構成、特定の事業者への集中なども検討する必要があります。
さらに重要なのが流動性です。ETFは投資家からの解約に対応する必要があるため、保有するETHをどこまでステーキングするかは、収益性だけでは決められません。Ethereumでは、新規バリデーターの有効化にActivation Queueが存在し、ステーキングを終了してETHを引き出す場合にも一定のプロセスがあります。そのため、ステーキングによる追加収益と、投資家からの解約に対応するための流動性をどのように両立するかが商品設計上の重要な論点になります。
オンチェーンデータから分かるのは、ステーキング付きETH ETFの設計では「現在のAPRはいくらか」だけを見ればよいわけではないということです。どの程度のETHをステーキングするのか、誰にバリデーター運用を委託するのか、ステーキング中のETHと解約需要をどう両立するのか、そして得られた報酬をどのようにETFへ反映するのか。次回は、こうした論点を踏まえ、ステーキング付きETH ETFが実際にどのような仕組みで設計されるのかを見ていきます。
